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違法派遣の場合は派遣先との間に労働契約が成立するか?

      2016/02/23

日本精工事件 【大坂地判 2012/08/31】
原告:外国人労働者  /  被告:Y社

【請求内容】
派遣先Y社との間に労働契約が成立していたとして地位確認と、信義則違反等の不法行為に対する慰謝料を請求

【争  点】
①派遣先との間に黙示の労働契約が成立していたか?
②「雇用契約申込義務」により労働契約が成立していたか?

【判  決】
①黙示の労働契約が成立しない。
②「雇用契約申込義務」は発生していない為、労働契約は成立していない。

【概  要】
原告Xら(日系ブラジル人)は、派遣元会社に雇用され、派遣先Y社に対して、平成18年11月以前は「業務処理請負の従事者」として、その後は「派遣労働者」として就業していたが、Y社と派遣元会社との労働者派遣契約の終了に伴い、Y社の工場における就業を拒否された。Xらは、請負契約であった当時は「違法な労働者供給」であり①Y社との間に直接の労働契約成立、②黙示の労働契約成立、③「雇用契約申込義務」による労働契約成立等を主張した。

【確  認】
【雇用契約申込義務】派遣先に派遣労働者に対する雇用契約申込みが義務付けられる場合は以下の二つ。
1)派遣受入期間の制限のある業務について、派遣受入期間の制限への抵触日以降も、派遣労働者を使用しようとする場合(労働者派遣法第40条の4)
2)派遣受入期間の制限のない業務について、同一の業務に同一の派遣労働者を3年を超えて受け入れており、その同一の業務に新たに労働者を雇い入れようとする場合(労働者派遣法第40条の5)
※但し、派遣先が派遣元から「抵触日の通知」(派遣法第35条の2第2項)を受けていた場合のみが対象になるため、この通知がなされていない本件ではこの義務は発生していないと判断された。

 

【判決のポイント】

1)Xらは、請負契約当時「違法派遣」の状態にあったか?
請負という契約でありながら、Xらは注文会社の従業員から具体的な指揮命令を受けていたことから、注文会社を派遣先とした派遣労働者の地位にあったといえる。(請負の場合、注文会社の指揮命令は受けてはいけない)
よって、実態として派遣契約であるにも関わらず、請負契約としていたことは「違法派遣」といえる。

2)「違法派遣」が行われた場合、派遣先との間に直接雇用が成立するか?
特段の事情のない限り、「違法派遣である」というだけでは、派遣元と派遣労働者の労働契約が無効になることはない。よって、Xらと派遣元会社との労働契約は有効であり、派遣先会社と派遣労働者との間に直接の労働契約の成立を認めることはできない。

3)派遣先との間に「黙示の雇用契約」が認められる場合とは?
派遣元会社が名目的存在に過ぎず、労働者の労務提供の態様や人事労務管理の態様、賃金額の決定等が派遣先会社によって事実上支配されているような特段の事情が必要である。⇒そのような事情はないため認められない。

4)派遣先会社の責任
偽装請負・偽装派遣のまま長期間働かせたにも関わらず、突然派遣労働者らの就労を拒否し、一方的に不利益を負担させるような対応をし、合理的な説明や再就職のあっせんなどの道義的責任も果たしていないことは信義即違反であり不法行為に該当するとして、50万から90万円の慰謝料支払いを命じた

【SPCの見解】

■労働契約申込みみなし制度(※詳細は判例(13.1.16)パナソニックプラズマディスプレイ事件の記事参照)が始まれば、偽装派遣という違法状態があるだけで、会社が派遣労働者に直接雇用の申込みをしたとみなされ、労働者の承諾があれば労働契約は成立してしまうので注意が必要がある。偽装請負などは、偽装しようという意思がなくとも、知識が不足していたがゆえに偽装状態に陥ってしまうケースもある。違法であることを全く知らず、知らなかったことに過失がなかった場合はこのみなし制度の適用が除外されるが、単なる知識不足を「無過失」というのは無理があるだろう。請負・派遣に関わる会社は、平成24年10月1日施行の派遣法改正の内容をしっかり把握しておくことが求められる。

労働新聞 2013/3/11/2912号より

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