アリの働き方から考える
2016/03/23
先日、北海道大学の研究チームからアリに関する興味深い研究が発表された。アリは『働き者』というイメージを持つ人は多いと思うが、実はアリの集団はすべての個体が働き者ではない。アリやハチといった「社会性昆虫」の集団には、ほとんど動かない個体が常に2~3割存在するという。このことは研究によりすでに知られていた事であったが、短期的な生産効率を下げるため自然界になぜ存在するのかが大きな謎であった。
研究チームは、アリが卵の世話などの「常に誰かがしないと全体が致命的なダメージを受ける仕事」があることに注目し、働かないアリの集団と働かないアリがいない集団に分けて、比較した。その結果、働かないアリがいる集団の方が、働き者が疲れたときでも卵の世話などの担当を常に確保でき、長く存続した。実際の観察でも、働き者が休むと、怠け者が動き出すことが確認された。アリは「仕事への腰の軽さ」に個体差があり、腰が軽いアリから順番に動き出す傾向があるという。働き者ばかりの集団は全員が疲労してしまうというのだ。
以前ある会社の人事担当者からこんな話を聞いた。一営業所に新入社員を4人採用したら1人は優秀な幹部候補社員になり、1人は仕事ができない。残る2人は並のレベルだという。ならば優秀な社員を一カ所に集約すれば、効率的にシェア拡大を見込めるのではないかと私は思ったが、そうは単純にはいかないようだ。仕事熱心で優秀な社員を集めても、かならず成績が落ち、仕事ができなくなる社員がでてくるというのだ。
このアリの研究から、「働き者」と思っていたアリが、実は人間社会と同じように働き者ばかりではないという事、また「働かない」と思われているアリが実は集団の中で役に立つ存在であったという研究結果から、「働かない」と思われていた社員も実は、腰が重いだけで、いざというとき有能な働き手となる可能性を秘めていると思わされた。
また、アリの集団では働き者ばかりのグループが疲労して長続きしなかったが、これを社内に置き換えてみるとどうだろう。長期的な視点で考えると、長時間残業の問題や年次有給制度の消化率の問題、社員間での業務量の偏り問題などは、健康面や労働災害防止の観点からみても、事業所内において積極的に話し合い改善していく必要があるだろう。