アスペルガー症で休職、期間満了の退職無効求める
2018/03/03
日本電気事件 【東京地判 2015/07/29】
原告:従業員甲 / 被告:会社
【請求内容】
アスペルガー症候群により休職期間満了で退職扱いされたため、地位確認等を求めた。
【争 点】
休職期間満了時において、就業規則に定める「休職事由が消滅した者」に該当するか否か
【判 決】
就労に支障がある精神状態。希望する異動部署も就労可能とは認めがたく「休職の事由が消滅していた」とは認められない。
【概 要】
統合失調症の疑いと診断され会社から休職を命じられた甲は、その後アスペルガー症候群と診断された。休職期間満了時に就業規則に則り休職期間満了をもって自然退職となる旨の告知をされたが、休職期間満了時において就労可能であったため自然退職扱いは無効であるとして、地位確認等の訴えを提起した。従前の業務に従事させるには不穏な行動があり就労に支障があり、希望する異動先配置においても対人交渉が従前業務より多く、甲の精神状態では業務が可能であったとは認められないと判示した。
【確 認】
■アスペルガー症候群
広い意味での「自閉症」に含まれる1つのタイプで、対人関係の不器用さがはっきりすることが特徴。「表情や身振り、声の抑揚、姿勢などが独特」「親しい友人関係を築けない」「慣習的な暗黙のルールが分からない」「会話で、冗談や比喩・皮肉が分からない」「興味の対象が独特で変わっている」といった特徴がある。
■平成28年4月1日から「改正障害者雇用促進法」が施行される
(1)障害者に対する差別の禁止(2)合理的配慮の提供義務(3)苦情処理・紛争解決援助 等が盛り込まれる
【判決のポイント】
■休職の事由の消滅とは
原則として、従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合、又は当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常の程度に行える健康状態になっ た場合をいうと解される。労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十 全にはできないとしても、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務が提供することができ、かつ、その提供を申し出てい るならば、債務の本旨に従った労務の提供があると解するのが相当。本件では、甲と会社の労働契約は総合職で職位はA職群3級(総合職の最下位)。「休職の 事由が消滅」といえるには、会社の総合職の3級の者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ、かつ、甲がそ の提供を申し出ていることが必要。
■障害の考慮について
甲の障害からすれば、障害者基本法及び発達障害者支援法に基づく義務等を配慮すべきであるが、これは努力義務である。前記の平成28年4月1日から施行さ れる改正障害者雇用促進法の合理的配慮についても、当事者を規律する労働契約の内容を逸脱する過度な負担を伴う配慮の提供義務を事業主に課すものではな い。
■甲の就労の可能性を検討
従前に行っていた予算管理業務は、対人交渉の比較的少ない部署であるが、上司とのコミュニケーションが成立しない精神状態で、かつ不穏な行動により周囲に 不安を与えている状態では、同部署においても就労可能とは言い難い。また、職場復帰の面談の際、開発業務の技術職への異動を希望していたが、対人交渉が不 可欠であり、甲の精神状態では業務が可能であったとは認められない。
【SPCの見解】
■ 本件のように、休職期間満了時に労働契約を解除された労働者がその地位確認を求めて提訴する事案は少なくない。休職期間満了を理由にその労働者 の地位を否認するためには、復職することを容認しえない事由を会社が主張立証するべきであり、しかも主張立証は解雇を正当視しうるほどのもであることを要 すると判示する裁判例もある。(エール・フランス事件 東京地判昭59・1・27)これらから就業規則に休職期間の満了による自然退職を設けているのみで はそれを適用することは難しく、会社は休職満了時の労働者の復職の可能性を吟味する必要があるといえる。その際には、その労働者の職位が現実的に就労する 可能性がある業務とその業務の中で本人が就労を希望した業務が検討範囲であり、就労困難と結論づける場合には産業医等の専門家の意見も聴取しながら具体的 な理由を示すべきであろう。
労働新聞 2016/3/7 / 3055号より