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仕事与えられずうつ病再発、労災不支給の取消請求

      2016/08/20

国・広島中央労基署長事件 【広島高判 2015/10/22】
原告:元正社員(システムの運用保守担当として採用)  /  被告:国・広島中央労基署長

【請求内容】

うつ病休職から復帰後、再発したのは仕事を与えられないなどパワハラが原因として、労災不支給処分の取消しを求めた。

【争  点】
本人の態度を理由に一方的に作業場所への入室を禁じ、3ヵ月間日報の整理以外担当させなかった行為の心理的負荷の程度・発症との相当因果関係

【判  決】
行為は劣等感や恥辱感を与えたもので心理的負荷は強度と判断し、発症との相当因果関係(業務災害)を認めた。

【概  要】
平成19年6月~11月・・・うつ病により休職。

平成19年12月3日・・・復帰。会社において各種帳票を出力・カットする業務を行う→業務完了報告等が不十分であったため取引先から問合せを受けたり、納品データの誤りを指摘されることが続いた。

平成21年2月頃・・・業務内容をジョブ・フローの作成と印刷業務のサポートに変更→ジョブ・フローは修正を要する箇所があったり、「難しいのでできない」と申し出たことがあった。

平成21年9月中旬頃・・・ジョブ・フローの作成業務は終了したが、その後、具体的な業務を与えることもなく、また、自席を大部屋に移動させ、マシンルームに入室できないようにした。

平成21年12月・・・反復性うつ病性障害を発症させ、12月21日から休職→労基署長に対して労災給付を求めたが認められなかったため、訴訟を提起。原審(広島地判平成27.3.4)は棄却。控訴。

【判決のポイント】

使用者は、雇用する労働者の配置・業務の割当等については、業務上の合理性に基づく裁量権を有するが、労働者に労務提供の意思があり、客観的に労務の提供が可能であるにもかかわらず、使用者が具体的な業務を担当させないことは、当該労働者に対し、自分が使用者から必要とされていないという無力感を与え、他の労働者との関係いおいて劣等感や恥辱感を与えるなどの危険性が高いことから、そのような状態に置かれた期間(3ヵ月間)及び具体的な状況等(従前の作業場所であったマシンルームへの入室を禁止され、業務をあたえられなかった)によっては、使用者の合理的な裁量の範囲を超える場合があり、また、平均的な労働者を基準としても、精神障害を発症する原因となる強い精神的負荷を与え得る。

【応用と見直し】

職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議WG報告(平成24年1月30日)は、職場のパワーハラスメントを以下のように分類する。

①暴行・傷害(身体的な攻撃)②脅迫・名誉毀損等(精神的な攻撃)③隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害(過大な要求)⑤業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)。

本件は、⑤の類型に属するものである。これまで⑤の類型は、使用者に対し損害賠償請求を行う事案が多かった。本件は労働災害に当たるか否かが問題となった事案であり、疾病の業務起因性が問題となる。そのため、直接的には、使用者の業務命令が権利の濫用に当たるかが問題となるわけではないが、業務命令が権利の濫用に当たり労働者に強い心理的負荷を与える場合には、業務起因性が肯定され得る。

心理的負荷による精神障害の認定基準(平成23年12月26日基発1226第1号)においても、たとえば、仕事上の差別・不利益な取扱いの程度が著しく大きく、人格を否定するようなものであって、かつこれが継続した場合や、部下に対する上司の言動が業務指導の範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ、かつこれが執拗に行われた場合の心理的負荷を「強」としている。

本件は、認定基準の「具体例」のいずれにも当たらないが、合理的理由がなく長期にわたり仕事を与えないことは、裁量権を逸脱するものであり、労働者にも無力感・劣等感・恥辱感を与え、その精神的負荷は強いものとして、業務起因性を肯定したものである。

【SPCの見解】

本件は、労働者の業務遂行能力や態度にも問題がなかったわけではないが、使用者の行き過ぎた対応が問題視されたものである。監督署が精神障害の労災認定をする際に、「業務以外の心理的負荷 ” 強 ”」としてあげているものに、1.離婚又は夫婦の別居 2.自分が重い病気やケガをした又は流産した 3.配偶者や子供、親又は兄弟が死亡した 4.配偶者や子供が重い病気やケガをした 5.親類の誰かで世間的にまずいことをした人が出た 6.多額の財産を損失した又は突然大きな支出があった 7.天災や火災などにあった又は犯罪に巻き込まれた がある。これらが起因している場合は、労災認定がおりない場合がある。

精神障害認定で監督署への直訴を主張する労働者が出た場合は、会社としては、次の点に留意して対応してほしい。

その1 労災隠しを意図して健康保険での受診・請求を勧めない。

その2 過重労働(1ヵ月100時間超等)の事実と健康診断結果を確認する。

その3 本人と監督署に同行する。

監督署はまともな存在である。本人の請求意思を尊重して対応することが、監督署を敵にしない「こつ」である。

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