接待等の労働時間性(過労死労災判断の場合)
2016/02/23
国・大阪中央労基署長事件 【大阪地判 2011/10/26】
原告:労働者の妻 / 被告:国
【請求内容】
接待等の業務過重により労働者Aが脳疾患で死亡したという労災申請が不支給決定となったため処分取消を求めた。
【争 点】
接待・出張時の移動時間・携帯電話の携帯を義務付けてトラブルに24時間対応すること等は労働時間といえるか?
【判 決】
全てを労働時間として認定できないが、業務量は明らかに過重であり死亡との相当因果関係があると認められる。
【概 要】
労働者Aが脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血で死亡したのは過重労働に起因するとして、Aの妻Xが労災申請したが不支給決定がなされたため、当該処分の取消しを求めた。
Xは週5回程の顧客接待・出張の移動時間も労働時間として扱うべきであり、また、「オンコール体制」(24時間携帯電話の携帯を義務付けられ、トラブル対応を求められていた)についても月10時間の負荷として評価すべきであると主張した。
【確 認】
【労働基準法32条の労働時間にあたる場合】(原則)
①接待・・・業務性は低く、重要な商談が行われるなど具体的必要性と事業主の特別の依命がある場合に限られる。
②出張の移動時間・・・出張の移動時間の過ごし方は通常労働者の自由であり、物品の監視など別段の指示がなされているのではない限り、労働時間に該当しない。
③オンコール体制・・・実際に電話があって対応した場合には労働時間に該当すると考えられるが、ただ携帯の電源をオンにしているだけならば、自室でテレビを観るなど自由に時間が使える為、業務性はないと判断される。
但し電源オン命令は大きな心理的負担を伴うので、回数を限定したり、代償措置として手当を支払うのが適切とされる。
【判決のポイント】
1)接待の労働時間性
以下の理由から、Aの接待はそのほとんどが業務の延長であると言える。正確な時間は不明だが、少なくとも午後10時頃までは行われていたと推認できる。(部下の証言によると12時から1時に及ぶのが通常であった)
①顧客との良好な関係構築・人脈を利用した情報収集等のために必要とされ、会社も承認していた。
②技術的に詳しいAの話を聞き、技術的な問題点をより具体的に議論する場とされていた。
③Aは酒が飲めず、会食や接待が苦手であったが、業務上の必要から出席していた。
④接待は週5回程度あり、その費用は全て(月額枠である20万円を超えた部分についても)会社が負担していた。
2)出張の移動時間の労働時間性
Aはパソコンを持ち歩き、業務に従事していたこともあったと窺われるが、詳細は明らかではない。出張の移動時間は業務の過重性を検討する際には考慮要因のひとつとすべきであるが、労働時間として認定することはできない。
3)オンコール体制による早朝・深夜・休日等のトラブル対応
携帯電話の携帯義務付けによる早朝・深夜・休日等のトラブル対応については、その時間数は内容や程度によって様々であるため正確な時間の算定は困難であり、1箇月10時間との算定はできないが、業務の過重性を判断するには十分考慮する必要がある。※実際に電話があって対応した場合には、労働時間に該当すると考えられる。
4)業務起因性
Aの時間外労働は午後10時までの接待の時間を考慮して、発症前1ヶ月で73時間(発症前6ヶ月間では約63~81時間)であり、業務量が過重であったのは明らかで、本件疾病・死亡との間に相当因果関係が存在すると認められる。
【SPCの見解】
■本件は過労死の労災認定についての裁判であるため、未払い残業代の場合よりも「労働時間」の判断が多少穏やかになされている。例え労働基準法上は時間外労働と判断されなくても(量的加重性判断)、過労死の労災認定上では判断要素として考慮される(質的加重性判断)ということはあり得るので注意が必要である。
その他、出張帰りに会社に寄って行った業務、職場の宴会、スポーツ大会、研修など、労働時間とするべきか否かについて判断に迷う場合は多いが、基本的には「使用者の命令の有無」「参加が強制か任意か」「業務上、必要性があるといえるか」「場所的・時間的拘束があるか」等により個別に判断される。
労働新聞 2012/7/16/2881号より