「有期は50歳上限」就業規則を改定し塾講師を雇い止めに
市進事件 【東京高判 2015/12/3】
原告:社員(専任教務社員) / 被告 会社(学習塾等経営)
【請求内容】
原告が就業規則の「50歳不更新制度」に基づき雇い止めされたため、雇い止めの無効を主張し、地位確認等を求めた。
【争 点】
雇い止めが客観的合理性も社会通念上の相当性も認めがたいとし、一審判決を支持し、会社側の控訴を棄却した。
【概 要】
控訴人は、学習塾等を経営する会社である。被控訴人は20年以上契約を更新してきた専任教務社員である。会社は、平成14年に就業規則を改定して、満年齢50歳を越えた場合には原則として、翌年度の契約更新は行わないという契約更新の上限を設ける制度「50歳不更新制度」を導入したが、10年を「経過期間」と設定し、期間内に雇い止め年齢に達した専任が希望すれば、特嘱として60歳を越えた時点で特嘱を勇退するとされていた。
専任教務社員説明会において50歳不更新制度導入の説明会が行われたが、経過期間の説明が明確に行われておらず、また被控訴人が50歳不更新制度導入に同意したこともなく、さらに経過期間後も50歳を超えた者を嘱託教務社員として雇用する等していた。
【確 認】
労働契約法19条①有期労働契約が、過去に反復して更新された労働者の雇い止めが、期間の定めのない通常の労働者の解雇と社会通念上同視できると認められること。②有期契約の満了時に、契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるもの。この2つのいずれかに該当する場合、雇い止めが否定され、従前と同一内容の契約申込みを承諾したものとみなす。
本件は、上記10年「経過期間」が経過した以降も就業規則内容とほぼ同様である嘱託教務社員として勤める51歳を超える者が相当数存在した。
特嘱としての雇用が60歳を超えるまで継続する限りにおいては受け入れられていたということであれば、就業規則改訂後の更新期待の限度を60歳と認定することも可能な余地はあると思われる。(参照:三洋電機事件=大阪地判平9.12.22)
労働新聞 2016/09/19 / 3081号より
【判決のポイント】
■「契約更新は50歳が最後」という就業規則の効力を認めず
・就業規則の変更について、労働者が被る不利益が小さくない一方で、「年齢が50歳を超えた場合には一律に契約更新を行わないとの就業規則の変更を行う高度の必要性を肯定することができないと」判示された。
・本件雇用契約は長期間にわたり更新が重ねられてきたこと、さらに特嘱制度は、10年の経過措置が経過して廃止され、以後は特嘱として契約期間を更新しないことが明白に説明されていたとみることはできない。
・上記10年「経過期間」が経過した以降も就業規則内容とほぼ同様である嘱託教務社員として勤める者が相当数存在したことから、満60歳に達した日の属する年度末までは、特嘱ないしそれと同等の職務内容の職種で契約が更新が期待することには合理的な期待がある。
【SPCの見解】
学習塾の講師という職種から考えると、生徒にとって魅力ある学習塾の講師という職種から考えると、生徒にとって魅力ある授業を求められる中、魅力ある授業ができない講師について継続雇用をしないということ自体は問題がありません。しかし今回の判決のように、期間の定めのある雇用契約であっても、雇用の継続に対する労働者の期待に合理性がある場合には、解雇権乱用法理が適用され、解雇であれば、解雇権乱用、信義則違反または不当労働行為等に該当します。
被控訴人は雇用契約を20回更新し、20年以上講師として勤務しており、その業務内容は授業を受け持つという点で持続性があるが、更新手続きはそれほど厳格ではなかったことが問題であり、今回の判決に至ったのだと考えます。