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セクハラか?それとも社内恋愛か?

      2016/02/23

M社(セクハラ)事件 【東京高判 2012/08/29】
原告:元女性社員X  /  被告:M社,社長,店長

【請求内容】
女性社員Xが社長と店長に強姦されたとして、加害者(社長Aと店長B)、会社(M社)双方に慰謝料等を求めた。

【争  点】
①社長A、店長Bとの性交渉について、原告の合意はあったか?
②会社に使用者責任があるか?

【判  決】
①社長A:合意なし。店長B:合意あり。
②会社に使用者責任を認め、社長Aと連帯して300万円支払う。

【概  要】
質屋業を営むM社に内定が決まった女子大生Xが、大学卒業前からアルバイトとして勤務し、その後正社員となった。XはM社の社長A、店長Bとそれぞれ性的関係を持ったが、後日Xはこれを強姦であるとして、不法行為に基づき慰謝料等の損害賠償の支払いを求めた。一審では、社長A・店長Bともに「合意の上」としてXの請求が棄却されたが、これを不服としてXが控訴した。

【確  認】
【セクハラ(セクシュアル・ハラスメント)とは】(男女雇用機会均等法11条1項)※ パワハラと異なり法的定義あり
職場において、相手の意思に反して行われる性的言動で、その対応により労働条件等に一定の不利益を与えたり、労働環境を悪化させたりすること。均等法により、事業主にはセクハラへの適切な対応が義務付けられている。
<対価型> 職場の地位や役職を利用して、解雇、降格、減給などの不利益を与えるケース
(例)「○○しないと評価を低くするぞ」などと言って相手が性的に嫌がることを強要する 等
<環境型> 性的言動により相手方の職場環境を悪化させるケース
(例)職場にヌードポスターを貼る、何人か集まって異性に聞こえるような声で卑猥な冗談を言いあう 等

 

【判決のポイント】

<なぜ社長だけ「合意なし」と判断されたのか?>
社長AはXに対して人事権を有する代表取締役であることから「Xが望んだことではないことは明らか」であり、Xが自分の立場を考えてやむなく受け入れたものである。したがって、Xが社長Aの要求を拒絶することは、不可能とまではいえないが「心理的に困難な状況」であり、Xの自由な意思に基づく同意があったとは認められない。
⇒代表取締役という立場を利用して行われた社長Aの行為は、Xの性的自由・人格権を侵害した違法な行為である。
(※店長に関しては、「Xと極めて親密な関係にあった」と認められ「合意の上」と判断された)

<会社の使用者責任(※)>
社長Aは、実質的にはM社に使用される「被用者」であり、Xの自宅を訪問した行為は「事業の執行と密接な関連性を有する」と認められるから、民法715条に基づきM社は「社長Aの使用者」として損害賠償責任を負う。

<就業時間外に行われたセクハラであっても、会社は責任を負うのか?>
セクハラの定義である「職場」は広く解されており、判例上勤務時間外の宴会なども職務の延長とされることが多い。また職務上の地位を利用した場合も「職務と関連して行われた」と判断されることがあり、会社も責任を負う。


(※)使用者責任(民法715条)とは、ある事業のために他人を使用する者(使用者)が、被用者がその事業の執行について、第三者に損害を加えた場合にそれを賠償する責任のことをいう。

【SPCの見解】

■本件には被告が2人存在するが、社長は「合意なし」、店長は「合意あり」と判断が分かれている。どちらもXよりも地位の高い者であることに違いはないが、実際に個人的な交際の事実があった場合は「合意あり」と認定される場合もあるようだ。事実がどうだったのかは当人達しか知りえないことであるが、しかし極論を言えば「上司と部下との性的関係は、セクハラとして訴えられるリスクがある」という事実は否定できない。とはいえ、就業規則等で「社内恋愛禁止」などとすることも難しく、完璧な回避方法はない。会社としては、社内環境や職場の人間関係に常に目を配り、セクハラの訴えがあれば事実関係を慎重に調査し、必要に応じた措置を講じる他ないだろう。

労働新聞 2013/4/22/2918号より

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