複数の事業所で勤務の場合の社会保険の加入について
9月になり、朝晩は涼しくなり、若干過ごしやすくなったように思われますが、日中はまだまだ暑いですね。昼夜の温度差で体調をくずさないよう、気をつけましょう。
さて、今回は、複数の事業所で勤務する場合の社会保険の加入についてです。
最近の働き方としては、複数の事業所をかけもちしたり、サラリーマンをしながら会社を起業したりと、柔軟な働き方をしている人が増えてきているように思われます。弊社でもお客様から、複数の事業所に勤務している方の社会保険についてのお問い合わせを時々いただいております。
複数の事業所での働き方がそれぞれ社会保険の加入要件を満たしていれば、それぞれの事業所で社会保険の加入が必要となります。今までは、1日または1週間の所定労働時間(28年10月より1日の要件がなくなりました。)及び1か月の所定労働日数が通常の社員のおおむね4分の3以上という要件を満たさないと、社会保険の加入はできなかったため、物理的に片方の事業所でしか加入対象にはなりえず、一般労働者においては現実としてはほとんどなく、対象になる場合といえば役員の場合だけでした。役員の場合は就労時間だけでは判断せず、役員報酬の有無や業務執行権の有無など、総合的に判断するケースが多いことから、対象になる可能生がでてくるのです。
ところが、平成28年10月からの法改正により、被保険者数が501人以上の企業においては、今まで対象ではなかった短時間労働者に対しても社会保険の加入義務となりました。
それによって、今後、複数の事業所をかけもちしていた役員以外の一般の労働者にも、双方の会社で社会保険の加入義務が発生してくる可能性がでてきたのです。
手続きには、「保険・厚生年金被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」(以下、二以上事業所勤務届)という届出が必要となります。あまり聞きなれない言葉だと思いますが、今後、増えていく可能性はありますので、手続きの内容や保険料の計算等について、お伝えしたいと思います。
●手続きの内容
- 被保険者が2カ所以上の会社に所属することになった日から10日以内に「二以上事業所勤務届」を提出します。その際、選択事務所と非選択事務所を選択する必要があります。※この届出の提出に当たっては、適用事業所の被保険者となるための「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」の提出が前提となります。新たに被保険者となる場合には、事業所から資格取得届が提出されていることを確認してください。
- それぞれの会社を管轄する年金事務所が異なる場合は、上記1で選択事務所とした事業所を管轄する年金事務所長宛に「二以上事業所勤務届」を提出します。
- 保険者が同じ(協会けんぽと協会けんぽ)ではなく、保険者が異なる(協会けんぽと健康保険組合)場合には、非選択事業所の方の喪失届の提出が必要になることもありますので、詳しくは管轄の年金事務所・健保組合等にお問い合わせ下さい。
- 今まで1事業所で使っていた保険証の被保険者番号は、欠番となり、新たな番号が付与されます。非選択事業所の番号は付与されません。
- 保険証は1枚となり、選択した事業所の保険証が送付されます。
●保険料の計算方法
社会保険料については、複数の会社の報酬の額を合算して、合算した報酬月額で標準報酬月額を決定し、それに保険料率をかけて2社合計の保険料を算出します。算出した保険料に、各会社の報酬を按分した金額がそれぞれの会社での社会保険料となります。
事例をあげてみますと
例)A社から40万円、B社から20万円の報酬を受けているケース
A社40万円+B社20万円=合計60万円
合計の60万円が報酬月額となりますので、標準報酬月額は59万円(平成29年9月分からの保険料) となります。
各事業所での保険料は・・・
A社:59万円×保険料率×40万/60万
B社:59万円×保険料率×20万/60万となり、算出した額をそれぞれ会社負担分と従業員負担分を折半して支払います。
●随時改定の月額変更届について
では、二以上勤務の被保険者の月額変更届は、どのようにすればいいのでしょうか
前例の場合のA社の報酬が40万円から46万円に昇級した場合を考えてみましょう。
A社の報酬月額が46万円になると等級が2等級差になり、A社だけみると随時改定の対象となります。しかし、二以上勤務の場合では、A社とB社の報酬月額の合計でみるので、A社46万円+B社20万円=66万円となり、1等級しか上がらないことになります。
通常は、1等級差ですと月額変更届は出さなくていいのですが、二以上勤務の場合、保険料の按分が変わってきますので、月額変更届は出す必要があるのです。本人が払う保険料の総額は変わりませんが、A社とB社の負担する保険料が変わってくるからです。
●役員の社会保険の加入義務
会社役員の場合は、勤務時間・日数などに関係なく、原則として社会保険の加入義務があります。ただし、次の場合は例外的に社会保険の加入は対象外です。
1・非常勤の役員の場合 2・常勤の役員であっても、役員報酬が0円の場合
ただし、代表取締役につきましては、「非常勤」という形態はとれないので、役員報酬が0円である場合以外は、社会保険に必ず加入する必要があります。
以上、二以上勤務についてお伝えしましたが、なんだかややこしいですね。
現状としては、二以上勤務の社会保険加入の要件に該当していたとしても、あまり手続きはされていないというのが実態かと思われます。 理由としては、手続きや管理が煩雑なこと、また、行政からもあまり厳しく指導されていないということがあったようです。
厚生労働省(日本年金機構)において、ここ2・3年の間に、社会保険の適用促進対策を強化する方針が打ち出されており、未加入事業所の調査を積極的に行っています。それに伴い二か所以上勤務に対する取り調べに対しても、今後は取り締まりが厳しくなることが予想されますので、該当する対象者がいる場合は、速やかに手続きする必要があるでしょう。
なお、雇用保険については、加入要件を満たした複数の会社に勤務していたとしても、主となる事業所のみで加入すればいいので、両方加入する必要はありません。