改正民法による労働基準法に与える影響について
昨年、民法が改正され、短期消滅時効がほぼ全て廃止されました。その中で、唯一、労働基準法だけが対象外とされたため、厚生労働省では改正民法に対応して労働基準法の賃金請求権の消滅時効のあり方について、検討を始めたそうです。
現在、労働基準法では、賃金請求権の時効について、労働基準法第115条に定めています。
第115条
「この法律の規定による賃金(退職手当を除く)、災害補償その他の請求権は二年間、この法律の規定による退職手当の請求権は五年間行わない場合においては、時効によって消滅する」
このように、115条を根拠に、現在の労働基準法上の賃金等請求権は2年と定められていますが、これは、例えば、労働者が使用者に未払い残業代等の賃金の未払いを払えと請求した場合に請求できるのが、遡及して2年までということです。消滅時効を2年としているのは、労働基準法第24条(賃金の支払い)同法26条(休業手当)同法37条の1(時間外・休日労働に対する割増賃金)同法第20条(解雇予告手当)同法第39条(年次有給休暇)などが中心ですが、今回の民法の改正に伴い、今後、この2年の消滅時効の期間が5年に延長される可能性があります。
それでは、今回の改正を受け、企業はどのような影響を受けることになるのでしょうか
1・未払い賃金(残業代等)の請求期限の延長
弊社でも時々お問い合わせのある、未払い残業代の問題ですが、現在、労働者から遡及請求できる権利は2年でありますが、もし5年に大幅延長された場合、企業側としては、大きな経済的リスクを負わなければならなくなります。
2・年次有給休暇の有効期限の延長
現在、年次有給休暇の取得期限は2年となっており、これを過ぎると未取得分の取得はできなくなっていますが、改正により、年次有給休暇の消滅時効が5年に延長される可能性があります。 年間20日付与のケースを想定すると、労働者一人につき最大で(20日×5年間=100日分)もの年次有給休暇が蓄積されることになりますので、企業では今後、従業員に対する有給の消化について、計画的に消化するよう推奨していく必要があるのではないかと思います。
このように、未払い賃金請求や年次有給休暇の取得に関わる時効が見直されることで、万が一の際に企業が負うべき負担はこれまで以上に大きなものとなります。労働者保護の傾向はこれからもますます強化していくと思われ、労働基準法改正を目前に控え、企業が取り組むべき課題は、「労使のトラブルが起きないための労務管理」です。社内規程の見直しや整備はもちろん必要ですが、それ以前に、すべての基礎となる「勤怠管理」について正確に管理できるようにしなければなりません。そして、正しい「勤怠管理」をして正当な手当を払うことと同時に、そもそもの残業の必要性や業務の効率性やコストの問題を検討するいい機会になるのではないのではないでしょうか
今回の改正を受け、労働者側から企業への未払残業代請求件数が急増する可能性がでてくることと思います。 施行は2年後の平成32年4月の予定でまだまだ先のようですが、勤怠管理を疎かにしてしまっている企業においては、今のうちから勤怠管理の見直しをして対策を考えておくことをおすすめします。