改正労働者派遣法
平成27年9月に施行された「改正労働者派遣法」は記憶に新しいですが、今年で3年を迎えようとしています。平成27年のこの法改正は、派遣元企業にとっても派遣先企業にとっても影響がある大きな改正でした。その中でも「期間制限の見直し」については、3年に抵触する可能性のある派遣労働者がいる場合にはこの改正法が適用されるため、企業としての対応が迫られることになります。
今回は、改めて「改正労働者派遣法」とは、どのような内容で、どのような影響がある法改正であるのかを考えてみたいと思います。
1・労働者派遣事業の許可制への一本化
一般労働者派遣事業は許可制、特定労働者派遣事業は届出制となっていましたが、法改正後許可制に一本化されました。改正前から届出による特定労働者派遣事業を行っていた事業主が、経過措置として派遣事業を引き続き行える期限は、原則、平成30年9月29日までとなります。メリットとしては、新しい許可基準をクリアしないと申請できないため、法令順守の健全な派遣会社の中から派遣労働者を受け入れられるようになったことです。
2・労働者派遣の期間制限の見直しについて
労働者派遣法の改正前は、いわゆる「26業務」への労働者派遣は期間制限がありませんでしたが、「改正労働者派遣法」によってそれが見直され、施行日以後に締結された労働者派遣契約に基づく労働者派遣には、すべての業務において2つの期間制限が適用されることになりました。2つの期間制限には「派遣先事業所単位の期間制限」と「派遣労働者個人単位の期間制限」があります。
《派遣先事業所単位の期間制限》 同一の事業所が派遣労働者を受け入れられる期間は、原則3年が限度となります。ただし、派遣先が3年を超えて派遣労働者を受け入れようとする場合に、抵触日の1ヶ月以上前までに派遣先の事業所の過半数労働組合または過半数代表者の意見聴取を行なえば、期間を延長することが可能です。施行日以後、最初に新たな派遣労働者を受け入れた日が、3年の派遣可能期間の起算日となります。それ以降、3年が経過するまでの間に派遣労働者が他の派遣労働者に変更になった場合や、派遣元の会社を変えた場合でも、事業所単位で派遣労働者を受け入れることが可能な期間の起算日は変わらないことになります(同一の事業所とは、工場、事務所、店舗等、場所的に独立している事業所のことです)
《派遣労働者個人単位の期間制限》 同一の派遣労働者を、派遣先の事業所における「同一の組織単位(例えば、総務課や営業課など)」に対して派遣できる期間も同じく3年が限度です。つまり、組織が違う総務課から営業課に所属を変えれば、3年経過しても同じ派遣労働者が同一の事業所で引き続き働くことができます。ただし、上記の事業所単位の期間制限期間に引っかかりますので、事業所単位の期間制限が延長されていることが前提になります。
《2つの期間制限がかからない適用除外》
上記の2つの期間制限については例外もあります。以下のいずれかに該当する場合は、期間制限がありませんので同じ派遣労働者が、同じ職場の同じ業務をいつまでも行うことができます。 ●派遣元事業主に無期雇用される派遣労働者を派遣する場合 ●60歳以上の派遣労働者を派遣する場合 ●終期が明確な有期プロジェクト業務に派遣労働者を派遣する場合 ●日数限定業務(1ヶ月の勤務日数が通常の労働者の半分以下かつ10日以下であるもの)に派遣労働者を派遣する場合 ●産前産後休暇、育児休業、介護休業等を取得する労働者の業務に派遣労働者を派遣する場合
3・雇用の安定を図るための措置
派遣労働者が同じ事業所の同じ「課」などに、継続して3年派遣される見込みとなった場合には、派遣元事業主に雇用安定措置を受ける義務が発生します。ただし、1年以上3年未満派遣見込みの場合は努力義務です。 ●義務の場合・・派遣元事業主は、以下のア~エのいずれかの措置を講じる必要があります。 また、以下のアを講じて直接雇用に結びつかなかった場合には、別途ア~エのいずれかの措置を講じる必要があります。 ●努力義務の場合・・派遣元事業主は、以下のア~エいずれかの措置を講じるよう努める必要があります。
ア 派遣先への直接雇用の依頼(派遣先が同意すれば、派遣先の社員となります) イ 新たな派遣先の提供(その条件が派遣で働く方の能力、経験等に照らして合理的なものに限ります) ウ 派遣元での派遣労働者以外としての無期雇用 エ その他雇用の安定を図るための措置(紹介予定派遣の対象となること等)
4・キャリアアップ措置 派遣元事業主は、雇用している派遣労働者のキャリアアップを図るため、段階的かつ体系的な教育訓練・希望者に対するキャリア・コンサルティングを実施することが義務になりました。
5・均衡待遇の推進 派遣労働者と、派遣先で同種の業務に従事する労働者の待遇の均衡を図るため、派遣元事業主と派遣先に、それぞれ新たな責務が課されることになりました。
6・労働契約申込みみなし制度等について 違法に派遣された労働者は、その派遣先から労働契約を申し込まれたものとみなされます。これを「労働契約申込みみなし制度」といいます。 《労働契約申込みみなし制度の対象となる違法な労働者派遣》
●労働者派遣の禁止業務に従事させた場合 ●無許可の事業主から労働者派遣を受け入れた場合 ●期間制限に違反して労働者派遣を受け入れた場合 ●労働者派遣法等の規定の適用を免れる目的で行われるいわゆる偽装請負の場合
つまり、派遣先で上記の違法行為があった場合、その時点で、派遣労働者が派遣元と交わしている労働条件と同一の労働条件において、直接雇用の労働契約を、就業先の意志とは関係なく自動的に申し込んだとみなされ、派遣労働者の承諾のみで派遣先との雇用契約が成立するという内容です。
例えば、意見を聴取した過半数代表者を、使用者が指名をするなど正当な方法により選出されたものではない場合や、派遣先の事業所単位の期間制限の延長手続を適正に行っていない場合にも、労働契約申込みみなし制度の適用になってしまいますので注意が必要です。
改正労働者派遣法は すでに4月に適用になっている「労働契約法の無期転換の5年のルールの改正」と並び、2018年の重要な問題です。
国の目的は「派遣労働者のキャリアアップとこようの安定を図るためのもの」と言っていますが、現実問題、派遣企業にとっては、正社員として直接雇用するというのは、コストの増を考えるとなかなか難しい問題であり、派遣労働者にとっても、正社員化は確実ではないなら、有期で今までと同じ業務で長く続けたいと思う人もいるわけであり、果たして、この改正は現実的にはいろいろな壁があるのではないかと思ってしまうところもあります。
いずれにしても、10月以降の適用時期は迫っているため、平成27年9月以降派遣労働者を受け入れている企業では、派遣労働者の現状の確認をして、派遣期限の抵触日等を把握しておく必要があるのではないでしょうか。