2人体制の夜行バス、運転待機中も労働時間?
【事案の概要】
2人体制の夜行バスの運転手らが、交代要員としてバスに乗車している時間は全て労働時間に当たると主張し、また出庫前・出庫後の計2時間は労働時間であると主張し、未払賃金、付加金等を請求した事案。
交代運転手の座席は、運転席の真後ろにあり、2人用の座席でも一人で使用し、制服の着用は義務づけられていたものの上着を脱ぐことを許容されていた。また、乗客の要望や苦情に対応することもなく、可能な限り会社は休憩できる配慮を行っていた。
一審の横浜地裁(平30.3.23)は原告(運転手ら)の請求を棄却し、原告らが控訴した。
【判決のポイント】
【 争点 】
交代運転手としてバスに乗車していた時間は使用者の指揮命令下におかれていたかどうか。
① 乗車中に乗客の要望や苦情に対応はあったか。制服の着用はどうか。
② 場所的拘束はどうか。
③ 出庫前・出庫後の計2時間も平成26年4月より労働時間算入した点は。
【 判決ポイント 】
① 交代運転手は、乗客の要望や苦情に対応することはなく、着ていた制服も脱ぐことを許容されていた。
可能な限り、指揮命令下から解放されるよう配慮できていた。
② 職務の性質上、休憩場所がバス内であることはやむを得ず、二人用の席に一人で着席し、リクライニング座席を用意するなど、可能な限り休憩できる環境が整えられている。
③ 26年4月の料金改正を受け、計2時間を加えた分の賃金を払っているが、この事実で、それ以前(26年4月より前)の2時間が労働時間と推認できない。
【 結論 】
以上より、交代運転手としてバスに乗車している時間は、労働契約上の役務の提供が義務づけられているとは言えず、労基法上の労働時間には当たらない。
【SPCの見解】
【 まとめ 】
労働基準法32条の労働時間に関しては、三菱重工業長崎造船所事件(最一小判平12.3.9)にて、判断基準が確立されている。
しかし、本件の待機時間や不活動時間については、それが労働時間に当たるかどうかが問題となってくる。
交代運転手ではないが、福岡地裁(平27.5.20)では北九州交通局のバス運転手が待機時間中に黙示的に乗客対応、適切なタイミングでのバスの移動など義務づけられており、労働時間と判断された例もある。
明確な指示等がなくても、黙示的に義務づけられたり、不測の事態の対応のために準備しておくなど、労働時間か休憩時間か曖昧になってしまっている時間に関しては今一度しっかりと区別することが重要となってくる。
【補足】
バス運転手、トラック運転手、タクシー運転手に対しては労働時間などに特例も設けられており、対象の会社様におかれましては今一度確認されてみてはいかがでしょうか。
下記URLより厚労省が発行している『労働時間等の改善基準ポイント』がございます。
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/leaflet_kijun.html