職場環境改善の実現に向けて
新型コロナウィルス感染拡大により、懸念されていた整理解雇や雇止めが現実に起こりつつあります。先週の発表では、いわゆる「コロナ解雇」が5万2508人と出ていました。そのうち非正規雇用と呼ばれるパートタイマーやアルバイトが約77%を占めているようです。
これまでの生活スタイルが一変し、事業閉鎖となれば全従業員が路頭に迷う事にもなり兼ねないため、企業は事業継続のため、やむを得ない決断を迫られていることが分かります。
ハローワークが発表する有効求人倍率も、7月は1.08倍。少し前の1.97倍が嘘のように、徐々に低下を続けています。
さて先日、職場環境改善にまつわるセミナーに参加し、日頃は自社の「事業所内産業保健スタッフ」をされている方々と話をする機会がありました。当社は少人数事業所でもあり、ストレスチェックはまだ実施していないので、現場スタッフの生の声が聞くことができ、とても参考になりました。
ストレスチェックは、常時50人以上の従業員を雇用する事業場で実施が義務化されている、ストレスに関する検査のことです。高ストレス者が申し出れば、医師の面接指導を受けるわけですが、やはり申し出する労働者は限られるようです。
ストレスチェック後の努力義務とされている「集団分析」も、まだまだ実施されていないようでした。集団分析は所属部署などの一定規模での集計・分析を行うことで、その部署特有のストレス要因を明らかにしていくもので、ストレスチェックと違い個人情報には当たりません。
この集団分析結果を元に、部署の「職場環境改善」を実施し、メンタルヘルス不調者を出さない環境を整えていくことが趣旨なのですが、“義務だから仕方なくストレスチェックをやる”、“努力義務だから集団分析はやらなくてよい”といった線引きは、どの企業も同じであるとの共通意見も大変興味深いものでした。
ストレスチェック後の集団分析で、ストレス要因が分かったにも関わらず、「人手不足だから」や「業務で手いっぱいだから」という理由でなかなか部署長が職場環境改善に消極的との話も出ました。何よりも、部署長が自分の部署はストレス対策がうまくいっていると思っている所ほど、部署従業員がストレスを抱えているという実状も、意外と多い意見でした。
日本の生産年齢人口は、普段の生活では感じられませんが、徐々に減少しています。ストレスを抱え込んでしまいメンタルヘルス不調により休職し、一緒に働けない従業員が一気に出たことを想像してください。現状の業務はどう回していきますか。残っている従業員の負担が増え、さらなるメンタルヘルス不調者が出てしまうかもしれません。
なかなかイメージしづらいことではありますが、「事業所内産業保健スタッフ」の生の声は、それが単なる空論ではないことも実感することができました。
職場環境改善は、小さな改善の積み重ねが重要です。そしてやりっぱなしではなく、できれば数値で表せるようにし、従業員が改善を体感できると、さらに改善が進むと言われています。
ノー残業デーの設置をすることで表せる数値は何でしょうか。ノー残業デーを実施できた従業員の割合を示すのも良いかもしれません。でも、ノー残業デーを実施することで、時間内に仕事を終える意識が高まり、ノー残業デー以外でも時間外労働が減少していく可能性もあります。
そうすることで光熱費も削減でき、浮いた経費をまた違う改善に充てていくことができ、従業員のモチベーションUPにつながる。できなかったことでなく、たとえ少しでも、できたことに目を向け、取り組んできた過程を評価することが必要です。
最近話題の「ハンコ文化」を見直すことでは、印鑑をもらうための手続きの時間的削減と、コピー用紙の費用削減も期待できます。改善提案をした従業員に、手当を支給するのも、意見を積極的に出してもらうのには有効かもしれません。
厚生労働省が出しているメンタルヘルス対策の取組事例集は参考になる事例もたくさん載っているので、ぜひご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/000615709.pdf
職場環境改善は、「従業員参加型」で始められるよう、まずは経営層が方針表明し、管理監督者層の理解を得ることで、全社一体での改善活動が進んでいくことが理想だと感じられた有意義なセミナーでした。