解雇の金銭解決、国の考えていること
解雇無効時の金銭救済制度に係る検討会が2018年6月12日を第1回目として、2022年4月11日を第17回目として開催されています。
そこで議論されているのは、通常の裁判や労働審判で解雇が無効とされた場合に、労働者からの申し立てにもとづき、金銭補償により雇用契約を解消できるようにする制度です。
つまり、解雇が不当と判断されて無効となった際、もとの職場に復帰する以外の道を労働者が選択しやすくすることを目的としています。
これは、一部の会社が「責任転嫁の解雇」をさも正当な理由をつけ、物言わぬ労働者をいいことに離職を押し付けている事例対策であれば、やむを得ないとは思います。
ただ、心配なのは、「完全補償」という補償金の額の算定方法を一部の教授が提案していることです。
「完全補償」とは、「いまの会社で働き続けた場合に得られる生涯所得」から、「再就職した場合に予想される生涯所得」を差し引いた金額です。
これって、本当に算定可能でしょうか?
会社側と労働者側の主張がもめにもめて結局、裁判官が苦労するだけのような気がします。
敢えて物申せば、経営者側が求めているのは、懲戒解雇まで至らなくても、問題社員としてどうしようもない者で、勧奨退職にも応じない場合に、国の規定する金銭を払えば正当に普通解雇できる制度です。
そのために「規定する金銭基準」を給与額、勤続年数、年齢、合理的な再就職期間等を考慮して偉い教授様達できめていただけることを期待しているのです。
「完全補償」なんて求めていません。単純明快なものをお願いしたいです。
それがむずかしいのであれば、今まで通り、経営者と社会保険労務士が、なんとか勧奨退職に応じてくれる金額や再就職条件を考え抜きながら、それでも拒否されるなら、訴訟覚悟で普通解雇を通知するやり方の方が現実的であり、労使双方に適っていると思います。
日本の場合、試用期間を経て一度入社させたのなら責任は会社にあるとして、解雇を回避する風潮が確かにあります。これが企業内の人材の新陳代謝を進みにくくするとか、日本の付加価値生産性を低下させるとか指摘され、解雇無効時の金銭救済制度検討の動機付けにもなっているのであれば、疑問を感じます。
いまでも会社は生き残りをかけ、「必要な解雇」は断行しています。自らの雇用責任と健全な労働を続ける者たちの職場環境維持を天秤にかけながら決断しています。
健全経営のための法律である労働契約法に、国の考えている解雇の金銭解決である「労働契約解消金」なんて条文ができなことを祈ります。