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配属部署が存続不能で新卒留学生の入社困難に

   

ネパールやベトナム国籍を持ち、日本語を学んだXらは、B学園でITデザイン等を学び、B学園経由で有料職業紹介事業を営むC社を通して、Y社の採用面接を受けた。採用を検討した経緯としては、Y社はニアショアサービス事業(首都圏の法人顧客へのシステム開発等を地方都市で提供するサービス。「D事業」という)へ参入を検討し、同事業の専門家Eを執行役員として、D事業の運営の全権を委ねた。

面接を受けたXらは、平成29年10月以降、勤務開始日を平成30年4月2日、勤務場所をD事業部とする採用内定通知書を受領し、入社承諾書を提出した。

平成30年2月頃、EがY社と競業可能性のある業務を行っていたことが分かり、同月13日に合意退職した。その後、Y社には他にD事業を行える経験者がおらず、事業の見通しが立たなくなり、同月27日にY社は、Xらに内定取消通知書(理由:Eが退職したこと、D事業の見通しが立たないこと、他部署での採用も困難なこと等)を交付し、就職活動のサポートを行っていく旨の記載があった。尚、Y社には他に5つの部署があったが、Y社全体の決算では債務超過であった。

Xらは内定取消にかかる債務不履行ないし不法行為に基づき、損害賠償を請求して提訴した。

【判決のポイント】

①XらはY社からの内定を受け、承諾したことにより始期付解約権留保付きの労働契約が成立した。内定通知書には勤務場所をD事業部としていたが、それが直ちに職種限定および勤務場所が特定されているとは認められない。また、Y社の就業規則には配転命令の記載もあり、この点からも職種等の限定は認められない。

 

②解約権が留保された趣旨としては、内定当時に予期できなかった事業により入社が困難になった場合に内定を取消すことができるとしたものと認められる。本件では、Eの退職による事業の見通しが立たなくなったことは認められるが、Y社が全権をEに委ね、適切なマネジメント体制を構築していなったことに由来すべき問題である。Y社としては、他の部署に配属を検討する等のあらゆる手段を検討すべきであるが、Eの退職から2週間で内定取消を行っており、拙速である。本件内定取消は、権利濫用として不法行為を構築する。

 

③Xらは日本語を学び、日本における就労意欲も高かったこと、および留学生が日本ですぐに就職先を見つけることは難しいことを踏まえると、6ヶ月分を限度に、本件内定取消と給与損害金との間の相当因果関係を認めるのが相当である。Xらへの慰謝料として30万円と認められる。

【SPCの見解】

採用内定とは、始期付き解約権留保付きの労働契約であり、「解約権留保付き」とは内定取消事由が生じた場合に会社が内定を取消す権利が認められていることを意味します。しかし、無制限に内定取消ができる訳ではなく、客観的に合理的と認められ社会通念上相当である場合に限られています。例としては、大学等を卒業できない、履歴書に重大な虚偽がある、健康上で重大な問題がある、刑事事件で逮捕された等が挙げられます。

責任者の退職や業績悪化による内定取消し行った本件事案においては、整理解雇の4要素を類推適用し、内定取消の有効性を判断されています。

 

また、採用内定は、労働契約法6条の労働契約成立には該当するものの、実際に労働しているわけではないので、解雇には該当しないものになります。よって労働基準法の解雇予告手当も必要ないものと考えますが、内定取消による損害賠償等を請求される可能性が高いです。本件事案でも、他の部署への配属の検討がないことや拙速な内定取消の部分が指摘されており、会社都合による内定取消では慎重に対応していくことが求められます。

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