過重労働による喘息死の労災認定
2016/02/23
川口労働基準監督署長事件 【東京高判 2012/01/31】
原告:国(控訴) / 被告:労働者Aの妻
【請求内容】
労働者の妻が持病悪化による喘息死の労災不支給処分取消しを訴えて勝訴した一審を不服として国が控訴した事案。
【争 点】
労働者Aの持病の喘息が悪化して死亡に至ったのは過重労働が原因であるといえるか?
【判 決】
死亡前半年間の月平均残業時間が80時間を超えており、質量とも加重労働で、喘息の悪化と因果関係ありとした。
【概 要】
労働者Aが喘息発作による心臓停止で死亡した。Aの妻は労災申請したが不支給決定処分となった。Aの妻は「Aの喘息死は過重業務が原因であり、不支給処分は違法である」としてその取消しを求めて提訴。第一審は「Aの喘息死は業務に起因する」として妻の請求を認めたが、処分行政庁はこれを不服として控訴した。Aは月平均残業時間が80時間を超えており、特に喘息死1週間前には大きなトラブルが連続し、1週間の総残業時間は約37時間であった。
【確 認】
【過労死の認定要件】
1)異常な出来事・・・発生直前から前日までの間に発生状態を時間的および場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと(精神的・身体的負荷・作業環境の変化など)
2)短期間の過重業務・・・発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと
(発症前おおむね1週間に日常業務に比較して特に過重な負荷のある業務に就いたか)
3)長期間の過重業務・・・発症前の長期間にわたって著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと
(発症前おおむね6ヶ月に恒常的な負荷のある業務に就いたか)
【判決のポイント】
本件は、死亡した労働者はもともと喘息を持病としてもっていたが、それが悪化して死に至ったことは、過重労働が原因であるのかどうかが最大のポイントである。
1)Aの喘息悪化が「業務上の加重負荷によりその自然の経過を超えるもの」であるといえるか?
<判断基準>
平均的な労働者を基準として、同様の負荷がかかれば誰しもそうなる(悪化・死亡等)であろうと言えるか否か。(何かしらの基礎疾患を有しながらも特段の勤務軽減を必要とせずに通常の勤務に就いている者も含む)
<今回のケース>
①Aの物流係長(中間管理職)としての業務は相応の精神的緊張を伴うものであった。
②慢性的な長時間労働であった。(喘息死以前6ヶ月の時間外労働の平均は約88時間)
③夜勤交代勤務も多かった。(喘息死以前6ヶ月のほぼ全ての勤務が深夜に及び、全体の約半分を占めていた)
④喘息死直前の1週間は大きなトラブルが多発し、総労働時間は約77時間(時間外約37時間)に及んだ。
⇒上記のことから、質・量ともに通常人にとって過重なものであったといえる。
2)本人に原因のある事項をどう判断するか?
Aは「アレルゲン、軽度の肥満、喫煙習慣等」の喘息の症状に影響を与えた可能性のある原因があったが、これが「過重労働がAの喘息を悪化させて死に至らしめた」という判断を妨げる事情となるものではない。
【SPCの見解】
■過労死の判断基準としては、時間外労働が月に「おおむね45時間を越えて労働時間が長くなるほど、業務との関連性が徐々に高まり、80時間を越えると業務との関連性が強い」と判断される。通常持病の悪化による死亡は、そもそもの病気が原因であるという印象から労災という認識が薄い傾向があるが、例え持病を患っている方であっても上記のような過重労働が発生していると、労災認定される可能性は高まるので注意が必要である。改正労働基準法により「月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引上げ」が行われたことも考慮して、月60時間という数字を基準に、これを超えないような労働時間の管理を徹底していくべきであろう。
労働新聞 2012/8/20/2885号より