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内定通知書の月給で採用されたと仮払い求める

   

プロバンク(抗告)事件【東京高決 令和4年7月14日】

【事案の概要】

債務者の求人情報(みなし残業45時間分含めた月給約46万円~53万円)に応じた債権者が、面接終了時に「月額給与および手当総額40万円(45時間分の時間外手当を含む)、賞与120万円」等とする採用内定通知書を受け取った。その後、債権者は「月給30万2237円、時間外勤務手当45時間相当分9万7763円、退職金なし」等とする労働契約書に署名することを留保し、「月給30万2237円」と「退職金なし」の部分を削除するとともに、月給欄に40万円と加筆し、署名押印し、債務者に提出した。

債務者との間で労働契約が成立したとして、労働契約上の地位確認と賃金等の支払いを求めた。

原審(東京地決 令和4年5月2日)は、労働条件の不合意として、労働契約の成立を否定し、申立てを却下したため、債権者が抗告した。

【判決のポイント】

  • 労働契約法6条(労働契約の成立)について

抗告人は、労働契約法6条は賃金に関する合意は要件とされておらず、労働契約が成立しないことは法に違反すると主張する。しかし、両者の間では賃金の額に対する合意はできず、就労に至らなかったのであるから、「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うこと。(労契法6条)」について合意があったと認められない。

 

  • 職業安定法5条の3(労働条件の明示)について

抗告人は、求人情報で示した労働条件を採用面接の過程で変更したことになるが、その変更が適切に行われていないため、労働条件の変更がされていないことが推定され、求人情報で示された条件での労働契約が成立すると主張する。しかし、このことも①で説示したとおり、労働契約の成立は認められない。

 

  • 採用内定通知書での労働契約の成立について

抗告人は、少なくとも採用内定通知書で示された条件での労働契約が成立すると主張する。しかし、抗告人は採用内定通知書が提示されたことも、これに応じたことも否定する趣旨の主張をしており、この採用内定通知書の条件で労働契約が成立した旨の主張は認められない。

【SPCの見解】

本件では、求人情報で45時間分の時間外手当を含み月額総支給額約46万円~53万円としつつ、面接時の採用内定通知書では月額総支給額40万円とし、賃金額をきっかけに労働契約の成立が争われた事案でした。

賃金については多くの求職者が関心をもって見る部分であるため、求人情報では約40万円~53万円と記載していた方が無難だったかと思います。

また、基本給に45時間分を含む金額を記載すると基本給自体は高く見え、多くの求職者の関心へと繋がりますが、トラブル防止のため基本給とみなし残業代については区別して記載する方法を推奨します。

 

本件は就労にも至らず、労働契約の成立も否定されましたが、就労していた場合は当然賃金の支払いが必要になり労働契約の成立についても異なった判断になった可能性があります。

なお、労働契約法6条は、「労働者が使用者に使用されて労働」すること及び「使用者がこれに対して賃金を支払う」ことが合意の要素であることを規定したものです。よって、実際の労務提供がなくても、内定承諾の段階で労働契約そのものは成立し得るといえます。

 

いずれにせよ、企業側としては求人情報には考えうる賃金額(見込まれる最低額~最高額まで)を記載しつつ、その他の条件(業務内容や就業場所、賞与・退職金の有無など)についても互いに誤解のないよう明示することが重要になります。

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