精神障害の労災認定基準に関する報告
令和5年7月4日に、厚生労働省の「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」は、『精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書』を取りまとめ公表しました。
当該報告書で<業務による心理的負荷評価表>の見直しがなされ、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスタマーハラスメント)と「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」が追加されました。報告後速やかに厚生労働省では精神障害の労災認定基準を改正すると思いますので注意が必要です。
<業務による心理的負荷評価表>と<業務以外の心理的負荷評価表>は精神障害の労災認定の際に判断基準とされるものです。つまり、『解雇制限』の対象となる労災になるか否かを決める大切な判断基準です。
パワーハラスメントも令和4年4月から全企業に適用され、法的根拠は労働施策総合推進法です。法律で規定されるまでは、パワーハラスメントは、<業務による心理的負荷評価表>においては、対人関係におけるひどいいじめ、嫌がらせであり、パワーハラスメントは俗語であり法律用語ではありませんでした。ちなみにセクシュアルハラスメントは男女雇用機会均等法による法律用語です。今回のカスタマーハラスメントも関係の深い法律(労働契約法第5条安全健康配慮義務・職場環境配慮義務等)はありますが、規定化された法律はなく法律用語ではありません。なので、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」となっています。
ここで、二つの視点から見ていきたいと思います。
一つは、いわゆるカスタマーハラスメントとは具体的にどんな行為で企業として何を注意しなければいけないのか。
二つは、労働基準監督署における精神障害の労災認定の判断方法とはどんなものなのか。
まず、カスタマーハラスメントとは、具体的には、
・店員を怒鳴りつける
・店員に土下座を要求する
・不手際のお詫びに、店舗の商品を無料で提供するようにしつこく要求する
・顧客自ら商品を壊した上で「商品が壊れていた」とクレームを入れる等です。
カスタマーハラスメントの行為者には、その対応によって精神的ダメージを受けた従業員に対して、不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります(民法709条)。
また、その内容によっては以下の犯罪が成立する可能性があります。
・暴行罪(刑法208条)、傷害罪(刑法204条)
→対応した従業員などに暴力を振るった場合
・名誉毀損罪(刑法230条1項)、侮辱罪(刑法231条)
→対応した従業員や会社の名誉を傷つける発言をした場合
・脅迫罪(刑法222条)、強要罪(刑法223条)
→対応した従業員や会社に対して脅迫を行った場合
・威力業務妨害罪(刑法234条)
→暴行や脅迫などによって会社の業務を妨害した場合
・軽犯罪法違反(同法1条5号)
→著しく粗野または乱暴な言動で他の客に迷惑をかけた場合等です。
ただ、問題は行為者の法的処罰の有無にかかわらず、行為者の言動にさらされる従業員に対する企業側の姿勢です。
つまり、労働契約法第5条により、従業員に対する「安全健康配慮義務・職場環境配慮義務」によりカスタマーハラスメン行為を放置しない、つまり行為から従業員を守る姿勢が問われるのです。
具体的には、責任者が行為者への対応を肩代わりする、責任者が不在の際は、行為者の主張を傾聴した上で、責任者から連絡をさせる旨をつたえ、行為者の氏名連絡先を聞く等があります。従業員への精神的ダメージをいち早く回避またはケアする行動が企業に問われることになります。
次に、労働基準監督署における精神障害の労災認定の方法ですが、<業務による心理的負荷評価表>において「弱」「中」「強」の「強」に該当する行為があったのかがポイントとなります。新たに追加されたカスタマーハラスメントの具体例の「強」として、「顧客等から、人格や人間性を否定するような言動を反復・継続するなどして執拗に受けた」と明記されています。そして、<業務以外の心理的負荷評価表>においておなじく「強」がないかを本人からヒヤリングします。結果、業務以外の心理的負荷や個人側要因に顕著なものは認められない時に業務上災害=労災認定される可能性が高くなります。
その際の<業務以外の心理的負荷評価表>の「強」を最後にご紹介します。
・離婚又は夫婦が別居した
・自分が重い病気やケガをした又は流産した
・配偶者や子供、親又は兄弟が死亡した
・配偶者や子供が重い病気やケガをした
・親類の誰かで世間的にまずいことをした人が出た
・多額の財産を喪失した又は突然大きな支出があった
・天災や火災などにあった又は犯罪に巻き込まれた です。