酒気帯び運転し免職、退職金3割支給の原審は
2023/09/12
退職手当支給制限処分取消請求事件【最三小判 令和5年6月27日】
【事案の概要】
公立学校教員をしていた被上告人(X)は酒気帯び運転を理由とする懲戒免職処分を受け、それに伴い、退職手当管理機関である宮城県教育委員会(Y)から退職手当等の全部を支給しないこととする処分を受けた。そのため、上告人を相手に上記処分の取消しを求めて提起した。
原審(仙台高判 令4年5月26日)は、退職手当の3割を支給しないこととした部分は、裁量権の範囲を逸脱した違法なものであると判断した。
【判決のポイント】
Xは自家用車で酒席に赴き、長時間にわたって飲酒をした直後、自家用車を運転し帰宅しようとしたものである。また、運転直後に過失により車両と衝突事故を起こしており、本件非違行為は重大な危険を伴う悪質なものである。
また、Xは公立学校の教員と言う立場にありながら酒気帯び運転という犯罪行為をしており、公立学校に係る公務に対する信頼や遂行に重大な影響を及ぼすものである。さらに、Yは前年度から教職員による飲酒運絵が相次いでいることを受け、複数回にわたり飲酒運転に対する懲戒処分をより厳格に対応するとした注意喚起をしていた。
また、退職手当を制限するかどうかの判断が原則として「管理機関の裁量に委ねられているY」にあるとしました。
以上より、Xがその他の懲戒処分歴がないこと、30年にわたって誠実に勤務したこと、反省の情を示していること等を勘案しても、退職手当を全部支給しないとしたYの判断は、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱または濫用したものとはいえない。(全部不支給としたYの裁量に逸脱はない)
【SPCの見解】
退職手当は『賃金の後払い的性格』・『勤続報償的な性格』・『老後保障』の3つの性格があります。
これまでの多くの裁判例は、賃金の後払い的性格を重視し、「永年の勤続の功を抹消するほどの重大な非違行為」に該当する限り、退職手当の不支給が肯定される傾向にありました。
本件は、公務員の退職手当を勤続報償的な性格が中心と解釈し、非違行為の内容や退職手当の裁量権がYにあることを前提にし、判断されました。
一般企業の退職金制度は様々ですが、多くの企業で本件の判断枠組みをすぐに適用することは困難かと思いますが、まずは企業としては自社の退職手当の性格を明確にしつつ、どういった場合に退職手当を不支給にするか規程に明記することが重要になります。
その上で、非違行為の内容・労働者の企業への貢献を考慮し、判断していく形になります。