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覚醒剤を所持使用して逮捕され退職金不支給に

   

【事案の概要】

従業員(X)は、平成7年4月よりY社に雇用され、主に車両検査業務に従事し、令和4年当時は車両検査主任として勤務していた。

Xは、令和4年4月に会社を無断欠勤し、交際相手とドライブに行った。その時に交際相手は覚醒剤と吸引器具を発見し、Xの父親に渡した。父親はこれを警察に任意提出し、その後に任意同行の末、覚醒剤取締法違反の容疑で逮捕された。

Xは主に平成29年頃から覚醒剤を購入及び使用しており、罪をすべて認め、令和4年9月28日に懲役2年執行猶予3年の有罪判決を受けた。

Y社は、令和4年7月7日に本件犯罪行為を理由にXを懲戒解雇し、退職金(退職一時金267万円、確定給付企業年金802万円)を不支給とした。そこで、Xはこれらの不支給の退職金の支給を求めて提訴した。

なお、Y社の退職金規程には「懲戒解雇により退職する者には、原則として退職金は支給しない。」規定があり、確定給付企業年金の規約には「加入者又は加入者であった者が次の各号(窃取、横領、傷害その他刑罰法規に触れる行為により事業主に重大な損害を加えたこと等)により事業所に使用されなくなった者は、給付の全部又は一部を行わないことができる。」との規定があった。

【判決のポイント】

Y社の退職金は役割等に応じて1年を単位に月割で付与される退職金ポイントを基礎とする退職一時金、確定給付企業年金等の額が定められる仕組みであり、退職金は賃金の後払い的性格を有していることが認められる。

賃金後払い的な性格を有する退職金を不支給とできるのは、当該従業員のそれまでの勤続の功を抹消してしまうほどの不信行為があることが必要である。

 

本件犯罪行為は10年以下の懲役に処すべきものとされる相当程度重いものであり、違法薬物の購入が反社会的組織の収益になっていること等、社会的害悪がある。

また、事態を重く見たY社が延べ758名、211時間もの時間をかけて再発防止の教育措置をとったことは相当であり、これを過大な措置だとするXの主張は失当である。

同時にY社は監督官庁へ報告しており、社外に少なからず影響も生じている。報道されていないのは偶然であり、それを有利に斟酌すべき事情として重視することはできない。

 

以上より、Xの本件犯罪行為は永年勤続の功を抹消するほどの不信行為というほかなく、退職金の全部不支給処分は相当である。

【SPCの見解】

本件では再発防止教育に延べ758名、211時間費やしており、首都圏の交通網の安全を担う一翼として、事件を重く見た会社の判断は妥当かと思います。

また、監督官庁への報告にも行っているなど、その影響が社内外に及んでおり、その点が覚醒剤使用という事実と絡んで退職金の全部不支給処分が認められたかと思います。

 

別の小田急電鉄事件(平成15年12月11日 東京高裁判決)では、従業員の勤務時間外の非違行為に対して3割の支払いが命じられており、退職金を全部不支給とするほどの“重大な不信行為”の判断や妥当性はやはり難しいものがあります。

 

その点で、薬物事件ではありますが、背信行為の内容や社内外の影響、退職金の性格など考慮し、退職金の全部不支給を認めた裁判例として参考になるかと思います。

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