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管理職から降格、社内資料で降給ルール周知?

   

日本HP事件【東京地判 令和5年6月9日】

【事案の概要】

従業員(X)は、平成31年2月にパソコン製造販売等を業とするY社と期間の定めのない労働契約を締結し、就労していた。

令和3年11月にY社はXを管理職としての能力不足を理由とし、給与6ヶ月分の退職パッケージで退職するか、年収を25%減額することに同意するか、どちらを選ぶように口頭で告げられた。

その後、Y社は減額幅の妥当性を勘案し、令和4年4月より減額幅10%の年収(年収:約1,020万円から約920万円)へと変更し、支給。

Xは、管理職から非管理職への降格が無効であるとして、減額分の賃金の支払いを求めてY社を提訴した。

降格に伴う降給時の月給の変換式は資料としてイントラネットに公開されていたが、就業規則や賃金規程に資料への委任規定はなく、労働基準監督署へも届出していなかった。

【判決のポイント】

(1)賃金減額について

会社が労働条件である賃金を不利益に変更する場合には、会社と労働者の合意または就業規則の明確な根拠が必要である。

 

(2)就業規則の有無

別途の資料において、管理職から一般職員へ降格となる場合の月例基本給の変換式を列挙しており、管理職から非管理職へ職務変更があった場合にも、みなし手当と固定賞与の変更の旨が記載されている。

しかし、社員給与規程と降給規程には上記の資料への委任規定はなかった。もう一つの資料として「知っ得!よく分かる人事制度!」を用いて従業員向けの説明会を毎年実施しているが、この資料も「給与体系」以外の内容が明らかでない。

以上より、別途の資料いずれも就業規則等の細則と認めることはできない。

なお、Y社は別途の資料を従業員や労働組合から指摘を受けたことがなく、労働契約の内容になっていると主張するが、指摘を受けたことがないと言うことをもって、この資料の合意を得たとすることはできない。

【SPCの見解】

会社が賃金に限らず、労働条件を不利益に変更する場合は「労働者の個別合意」もしくは「就業規則の明確な根拠」が必要になります。

本件でも就業規則に基づく降給処分を主張していますが、就業規則等に別途の資料に関する委任規定がなく、内容や周知の不十分さを指摘されました。

企業側も制度詳細を就業規則等に明記することに消極的な場合があり、今回のように内規としているケースも多くあります。しかし、内規であったとしても労働者の労働条件に影響を与える以上、就業規則とひもづけ、同時に制度詳細を周知する必要があると考えます。

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