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会社分割による転籍で、労働条件の不利益変更はできないのか?

      2016/02/23

阪神バス事件 【神戸地判 2014/04/22】
原告:労働者X  /  被告:Y社

【請求内容】
障害のある労働者が、転籍後も従前どおりの配慮された勤務シフト以外は、する義務がないことの確認を請求した。

【争  点】
会社分割によって転籍となった労働者の労働条件は、個別の同意を得ても不利益に変更できないのか?

【判  決】
通知義務等を省略し、きちんと説明しないまま行われた個別の転籍同意は、承継法の趣旨を潜脱するもので無効。

【概  要】
バス運転手Xは、障害を有することを理由に勤務シフトについて配慮を受けていたが、勤務先のY社のバス事業がZ社に分割承継されたことでXはZ社に転籍となり、勤務シフトの配慮が受けられなくなった。XはZ社への転籍同意書に署名したが、労働条件の不利益変更(勤務シフト配慮の消滅)まで同意したものではなく(要素の錯誤)、また、Y社が承継法の定める手続き(書面による通知等)を省略したことは公序良俗に反するとして無効を主張した。

【確  認】
【労働契約承継法】※会社分割について、会社法の特例が定められている法律です。
<分割承継の例>製造・小売を行うP社(分割会社)が、小売部門のみを分割して、別のQ社(承継会社)に承継。
1)分割会社は「分割事業で主に働いている労働者」や「分割契約にて労働契約が承継される予定の労働者」に対して、自身が承継の対象となっているか等について書面で通知しなければならない。(異議申立て機会付与の為)
2)分割承継によって別会社に転籍する(承継会社に承継される)場合であっても、労働契約の内容は、原則として「包括承継」であり、会社分割のみを理由とする解雇や労働条件の不利益変更はできない。(労働契約法の定めに従って不利益変更行うことは可能であるが、具体的説明や個別同意等の手続きを怠りなく行うことが必要)

 

【判決のポイント】

■Xから転籍についての同意書をとっていたにもかかわらず、何故無効なのか?
1)承継法では、承継の対象者等に対して異議申し立ての機会を与えるため、異議申出期限を設けて分割に関する事項を通知しなければならないにもかかわらずその手続きが省略されたことはXの「現在の労働条件(配慮された勤務シフト)をそのまま承継してもらいたい」というXの利益を無視しXの地位を不利益にするものである。
2)Xがした同意は、あくまで「会社分割によってXがY社からZ社にそのまま承継されること(包括承継)」を確認したにとどまり、従来の配慮された勤務シフトをなくしてもよいという意味までは含まれない。
3)例え不利益変更を伴う転籍に同意していたとしても、こういった場合の労働者の選択肢は①転籍する、②退職する、③分割対象部門以外の部署に異動を願い出る等の3種類程度しかなく、そんな状況下で同意書を提出させることは、「包括承継」を原則としている承継法の趣旨を潜脱するものであり、公序良俗に反して無効である。
■会社分割による承継において労働条件を不利益に変更することはできないのか?
原則として、会社分割では「包括承継(全てそのまま引き継ぐ)」であることを前提として、そのうえで承継会社において不利益変更の必要がある場合は、労働契約法の定めに従って不利益変更をすることが求められる。

【SPCの見解】

■会社分割により一部の労働者が別の会社へ転籍になる場合、対象となる労働者から個別に同意書を取るという手法(転籍同意方式)は実務上一般的に行われているが、本判決はその方式の効力を否定している点で注目である。
本件では、分割会社が承継法で定められている手続きを勝手に省略し、きちんと説明しないまま形式的に同意書だけ取得して済ませていたことに問題があった。もし承継法の手続きを完璧に行った上で個別同意を得たならば、それは承継による不利益変更というよりは、労働契約法9条による不利益変更として、有効か否かの判断がされると思われる。どちらにしろ、労働者への説明が不足している状態で取得した同意書は無効となると認識すべきである。

労働新聞 2014/08/11/2980号より

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