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育休復帰後に管理職に戻さないのはマタハラなのか?

      2016/02/23

広島中央保健生活協同組合事件 【最一小判 2014/10/23】
原告:労働者X  /  被告:会社Y

【請求内容】
妊娠を機に降格し、復帰後も妊娠前の職位に戻さないのは不利益取扱いであるとして管理職手当と損害賠償を請求。

【争  点】
妊娠中の軽易業務転換請求により降格させ、復帰後も元の地位に戻さないことは、均等法違反で無効か?

【判  決】
「本人の承諾」や「特段の事情の有無」を検討せずにした原審は違法で、再度審理を尽くさせるために原審差戻し。

【概  要】
副主任の地位にあったXが、妊娠中に軽易業務転換を請求したと同時に副主任を免じられた(本人はこの降格を渋々承諾)。Xは育休取得後復帰したが、再び副主任に任命されることはなかった。当該部署ではXの降格後、Xの6年後輩が副主任に任命され、とりまとめ業務を担当しており、復帰後のXはその後輩の下で非管理職として勤務することになった。一審・二審はXの「降格への同意」を根拠に、Xの請求を棄却している。本件はその上告審である。

【確  認】
【マタハラ(マタニティ・ハラスメント)とは】
妊娠・出産をした女性に対して、職場で精神的・肉体的な嫌がらせをしたり、人事上の不利益な扱いをすること。
法的には、均等法9条3項や育介法10条にて、「婚姻、妊娠、出産、育児休業の申出等を理由とする不利益取扱いの禁止」を定めている。不利益取扱いとは、以下のようなものをいう(厚生労働省告示第614号)。
① 解雇すること。②期間を定めて雇用される者について,契約の更新をしないこと。③あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に,当該回数を引き下げること。④退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。⑤降格させること。(※例示でありこれに限らない)

 

【判決のポイント】

■妊娠中に軽易な業務への転換を請求(労基法65条3項)したことを契機として降格するのは違法か?
原則として均等法9条3項に違反し無効であるが、以下の2点のいずれかに該当する場合は不利益取扱いとしない。
1)【本人の承諾】があるとき
⇒ 本人が「自由な意思に基づいて」降格を「承諾」したといえる「合理的な理由」が存在するとき。
2)【事業運営上の特段の事情】があるとき
⇒ 降格なしの軽易業務転換をすることに業務上の支障があり、降格が均等法9条3項の趣旨に反しないといえる
「特段の事情」があるとき(必要性の内容や程度、当該不利益取扱により労働者が受ける影響等により判断)
■本件が「原審差し戻し」という判決になったのはなぜか?
・軽易業務転換・降格措置によりXが受けた「有利な影響」の内容や程度が明らかではないこと。
・軽易業務転換・降格措置によりXが受けた「不利な影響」の内容や程度は「管理職の地位と手当の喪失」という重大なものであること。
・育休終了後も副主任へ復帰できるか否かについて、Xが会社から説明を受けた形跡がなく、十分に理解した上で(自由な意思に基づいて)降格を承諾したとはいえないこと。
・副主任の管理職としての職務内容等がはっきりせず、Xが軽易業務転換に伴い降格となったことの業務上の必要性の有無が明らかではないこと。
⇒ 上記の点について十分に審理・検討することなく、均等法9条3項違反にあたらないとした原審の判断は法令の解釈適用を誤った違法があり、それらの審理を尽くさせるため、原審に差し戻した。

【SPCの見解】

■本件最高裁判決は、均等法が禁止する「不利益取扱い」について「軽易業務転換を理由とした降格は、均等法9条3項違反であり、原則違法・無効」と明言し(均等法9条3項は強行法規と解している)、さらに「違法とならない場合の2つの例外」を挙げたという点で、今後非常に重要になる注目判例である。産休・育休取得者がいる場合、現場がその補充をするのは当然であるし、また復帰後も短時間勤務になったり、軽易な業務に転換した場合に処遇を下げることも妥当であると思えるが、原則は無効となるので注意が必要である。それでも処遇を下げる必要があるならば、今回挙げられた2つの例外に該当するという事実を、会社が証明できるように事前準備をするしかないだろう。

労働新聞 2015/01/19 /3001号より

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