職種限定の黙示の合意
2016/02/23
エバークリーン事件 【千葉地判 2012/05/24】
原告:労働者X / 被告:会社
【請求内容】
業務上のケガにより工場職へ配置転換されたドライバーが職種限定の合意に反するとして配転無効と差額賃金を請求。
【争 点】
①職種限定の(黙示の)合意は認められるか? ②配置転換には業務上の必要性があったのか?
【判 決】
職種限定の合意は認められず、配置転換も安全配慮義務等の見地から必要性があったとして、配転命令は有効。
【概 要】
Xはドライバーとして採用されたが、就労開始後、腰や膝を痛めて出勤できない期間があったり、業務作業中に右足を2度負傷するなどした。会社はXの傷病具合を勘案し、Xにドライバー職から工場職への異動を命じた。Xの雇用契約書には「ドライバー」との記載があったが、ドライバー職の就業規則には「業務の都合により職務変更を命ずることがある」旨の規定があり、また従前から工場職に異動するドライバーは年間5名程度いた。Xの異動後の給与は4割以下に低下した。
【確 認】
【配転(配置転換)とは】
同一企業内で、労働者の職種、職務内容、勤務場所について、長期にわたって変更する人事異動のこと。就業場所や職務を限定する労使の合意がなく、就業規則等に「業務の都合により配置転換を命じることがある」などの条項があれば、使用者には配置転換を命ずる権限があるものと解される。ただし、無制約に行使することができるものではなく、権限の濫用は許されない。例えば、①業務上の必要性が存しない ②不当な動機・目的がある(嫌がらせ等) ③労働者に通常甘受すべき程度を著しく越える不利益がある(介護すべき家族がいる等)場合など、権利の濫用となるような特別の事情があるときは配転命令が無効とされることもある。
【判決のポイント】
<職種限定(ドライバー職)の合意はあったのか?>
【Xの主張】「自分はドライバー募集の求人広告を見て応募した」「当初からドライバーとして勤務していた」
「雇用契約書にもドライバーと明記してあった」
【裁判所】① 雇用契約書の職務内容は『雇入れ直後の業務を指すものであって、職種を限定している訳ではない』
② ドライバー職を対象とした就業規則にも業務の都合による職務変更を命ずることがある旨の規定がある。
③ 従前からドライバーから工場職に異動する従業員が年間5名程度いた。
⇒ 本件労働契約において、Xの職種をドライバーに限る旨の合意があったと認めることはできない。(職種限定なし)
<本件配置転換命令に業務上の必要性はあったのか?>
【Xの傷病具合】平成20年9月 腰を痛めて稼動できなくなる
平成211年1月 業務作業中に通風性関節炎を発症 ⇒ 2ヶ月弱の自宅療養
平成22年3月と5月 業務作業中に2回にわたり右足を負傷 ⇒ 2.3日の休養
【ドライバーの業務内容】重量物を1人で持つことがあったり、長距離の運転を行うことがある。
⇒ 会社は、Xに対する安全配慮義務及び会社の円滑な業務遂行の見地から、本件配転命令を出すべき必要性がある。
<職種限定の黙示の合意があったか否かの判断基準>
①職務の性質(専門性) ②募集広告や求人票の記載内容、採用面接における使用者・応募者の言動の内容など採用時の具体的事情 ③採用後の勤務状況 ④就業規則などの規定内容 ⑤社内での異動の実情 等を考慮する。
【SPCの見解】
■求人記載の職種(ドライバー等)を見て応募した場合、その職種限定で採用されたと思ってしまいがちだが、無期雇用の正社員の場合、職種や勤務地を限定して採用されたと認められることは稀である。長期に亘って雇用を維持することを考えれば、ある程度の流動性が求められるのも致し方ないことである。しかし会社側は、トラブル防止のためにも「配転があり得る」ことを明示しておくのが良いだろう。また、職種限定ではなくても、会社が自由に労働者を配転させることが出来る訳ではなく、不当な目的による配転は権利濫用となるため注意を要する。今回の配転でXは給与が4割以下になったが、業務内容の違いにより、大幅な給与減額も特に問題視されなかった様である。
労働新聞 2012/12/10/2900号より