■競業避止について
2016/02/21
「労働市場の流動化」にあたり、“解雇規制の緩和”や「(解雇の)合理的なルールを法律で明確にすべき」といった話題に触れることも少なくなくなってきましたね。
「アベノミクス」によって疑心暗鬼ながらも、少し消費税増税等の話題に隠れてしまった感も否めませんが、“解雇規制の緩和”が実現した場合、勿論経過措置等一定の制約のもとにその範囲が徐々拡大していくと考えますが、「解雇」として捉えるのであれば、労働力の調整に対する裁量の範囲が拡大すると安易に捉えても構わないと考えますが、
「労働市場の流動化」であるのであれば、労働者の自発的退職も増える可能性が有ると考えますが、会社として準備されているでしょうか?
「労働市場の流動化」で神谷はまず何を準備すべきだと言いたいんだ?と。
「労働市場の流動化」を触発するのは決して賃金額の低下に限ったものではない、と考えます。
“解雇の規制”が緩和されることにより、過剰だった労働力の調整を達成したあかつきには、余剰となった資源をもとにより生産力の高い労働者の確保を考えるのは自然の流れでしょう。
会社にとって高額な賃金で保証しているとしても、ヘッドハンティングや自発的な退職が増えると考えられます。同業他社と比べて賃金水準が低いような場合や、残された減少後の労働者で、今まで以上の仕事に当たる場合もしかり。
そのような場合を想定して、まず「競業避止」について情報をご提供しようと考える次第です。
1.競業避止義務の考え方
(1)在職中の競業避止義務は、信義則に基づき当然に生じる義務。
(2)退職後の競業避止義務は、通説、裁判例ともに、契約上の明確な根拠[当事者間の合意(即ち契約)、就業規則への規定]を要すると解している。
a.原則:契約上の権利は契約の終了とともに消滅する。
b.職業選択の自由(日本国憲法第22条)による制約による。→契約上特約があっても、同法で保障する職業選択の自由とと考え合わせ、妥当性が判断される。
2.競業避止義務に関する規定がない場合
(1)懲戒解雇向こうの裁判例
a.タカラ通商事件(大阪地判 昭55.9.26)
b.久田製作所事件(東京地判 昭47.11.1)
(2)ヘッドハンティング
引き抜き行為はただちに違法行為とは言えない。しかしながら、真実にない事実をでっち上げ、誹謗中傷を行っていれば、その行為は不法行為であり、故にその行為への損害賠償、信用棄損行為への差し止め請求が可能。
3.「退職後の競業避止義務の有効性」について
(1)六つの視点
a.根拠となる就業規則への規定等を要する<被用者と使用者の予めの合意の存在を要する>
b.労働者の地位の高さ・職務内容
c.前使用者の正当な利益を目的とすること<固有の企業秘密は保護されるが、業務を通して取得できる一般的知識は、競業制限の対象外>
d.競業制限の対象<同一職種への就労・開業の禁止が原則>
e.競業制限の期間・地域<秘密等の内容・重要性に応じて個別に判断される>
f.代償の有無・程度<(1)~(6)の中で最も重要視される傾向にある>
(2)参考となる判例
a.フォセコ・ジャパン・リミテッド事件(奈良地判 昭45.10.23)
b.中部機械製作所事件(金沢地判 昭43.3.27)
c.東京リーガルマインド事件(東京地決 平7.10.16)
※当該事件は「労働契約終了後の競業避止義務の負担は、それが労働契約終了後の法律関係である一事をもって就業規則による規律の対象となりうること自体を否定する理由はない」としたもの。
4.労働者が競業会社に転職し、または独立自営にしたことよって、従前の会社に不利益を被らせまたはそのおそれがある時の(従前の)会社が執りうる措置
(1)不正競争防止法に基づく措置
a.競業の差し止め請求
b.損害賠償請求
c.信用回復の法的措置 等
(2)参考となる判例(退職金の不支給・減額措置)
a.三晃社事件(最二小判 昭52.8.9):退職金減額を有効としたもの
b.中部日本広告事件(名古屋高判 平2.8.31):退職金不支給措置が違法とされ退職金請求が認められたもの
c.福岡県魚市場事件(福岡地久留米支判 昭56.2.23):懲戒解雇されたものに対して退職金不支給を有効としたもの
d.久田製作所事件(東京地判 昭47.11.1):懲戒解雇されたものに対して退職金不支給を有効としたもの
e.福井新聞社事件(福井地判 昭62.6.19):既に支払われた退職金の全額につき、不正利得として返還を命じたもの
まだまだどのようになるか見えてきませんが、これを参考に頂き、貴社の営業秘密の管理の実務および規程をご確認いただけたら幸いです。