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■正社員と非正社員との賃金格差の違法性

      2016/02/21

今回取り上げる非正社員とは、労働力調査によると正社員と勤務形態が異なる雇用をいい、パートタイマー、契約社員、アルバイト、派遣社員、嘱託などさまざまな名称で呼ばれる労働者が含まれます。1990年には約20%だった非正社員の割合は、その後急増し、2012年には35.1%に達し、労働者の3人に1人は非正社員という状況となっています。

それでは、第2回目をはじめたいと思います。
取り上げる判例は、次の2つです。
1.臨時社員に対する賃金格差~丸子警報器事件
(長野地裁上田支部判決平成8年3月15日)
2.期間臨時社員に対する賃金格差~日本郵便逓送事件
(大阪地裁判決平成14年5月22日)

1.丸子警報器事件-「臨時社員に対する賃金格差」
労働者Xら(28名全員女性)は、自動車用警報器(ホーン)・リレー等の電子部品の製造販売を業とするY会社において臨時社員として雇用されていた。
臨時社員の雇用期間は2ヵ月であったが、実際には何度も反復更新され、勤務期間は4年から25年を超える者もいた。これまでにY社が臨時社員に対して契約更新を拒絶したことはなかった。
その間、Xらは、正社員と勤務時間も勤務日数も変わらず、業務内容は女性正社員とほぼ同じであった。また、QCサークル活動にも正社員とほぼ同様に参加していた。
正社員の給与は月給制で、基本給は原則として年功序列であるが、臨時社員の給与は日給月給制で、基本給は勤続年数に応じて3段階に分かれていた。一時金や退職金も臨時社員は正社員よりも低く定められていた。年収は、最も勤続年数の長い臨時社員と同じ勤続年数の正社員と比べた場合に約3分の2となっていた。
Xらは、同一(価値)労働同一賃金の原則に違反するなどと主張し、過去5年余の間に生じた正社員との差額賃金相当額(1人約230万円から550万円)など総額約1億4,700万円の損害賠償を求めて、Y社を提訴した。
本事件は、控訴審を経て以下の内容にて和解が成立し、Xらの賃金は、5年後には正社員の約9割まで上昇することとなった。
1 日給月給制から月給制へ。
2 通常の昇給とは別に平成16年まで毎年月額3,000円の特別昇給と行う。
3 昇給・賞与は正社員と同一の計算方法とする。
4 退職金は、和解成立から60歳までは正社員と同一規定を適用し、60歳以降は従前の基準の2.5倍に改める。

<判決からのメッセージ>
1)「同一(価値)労働同一賃金の原則が、労働関係を規律する一般的な規範として存在していると認めることはできない」
→Xらの主張する同一(価値)労働同一賃金の原則は、これを明言する実定法の規定も存在しなければ、「公の秩序」として存在するともいえない。

2)「同一(価値)労働同一賃金の原則の基礎にある均等待遇の理念は、賃金格差の違法性判断において、ひとつの重要な判断要素として考慮されるべきものであって、その理念に反する賃金差別は、使用者に許される裁量の範囲を逸脱したものとして、公序良俗違反の違法を招来する場合がある」
→労働基準法3条(均等待遇)・4条(男女同一賃金の原則)のような差別禁止規定の根底には、人はその労働に対し等しく報われなければならないという均等待遇の理念が存在している。Xら臨時社員の提供する労働内容は、外から見ても、Y社に対する帰属意識という内から見ても、女性正社員と同じである。

3)「Xらの賃金が、同じ勤続年数の女性正社員の8割以下となるときは、許容される賃金格差の範囲を明らかに超え、その限度においてY社の裁量が公序良俗違反として違法となる」
→同じ勤続年数の女性正社員の8割以下となっている部分だけ違法となる。8割の理論的根拠は不明である。

<メッセージに対する私的見解>
本判決が示した賃金格差が違法となる8割という基準は納得性が乏しいと思いますが、せめてY社は、一定期間以上勤務した臨時社員には正社員への登用とか、正社員に準じた賃金体系への移行を考慮する必要があったのではないかと考えます。ただし、臨時社員は正社員のように選考試験を受けたり、前職の職歴が問われたりせずに採用される場合が多いので、正社員への登用の際には、それなりの「壁」を乗り越えていただく必要はあると思います。

2.日本郵便逓送事件-「期間臨時社員に対する賃金格差」
労働者Xら(4名)は、郵便局の郵送物の運送等を行う会社Yにおいて、3ヵ月の雇用期間で雇用される期間臨時社員として業務に従事していた。
Xらは4年から8年にわたり契約を更新され、業務内容は正社員である本務者と基本的には同じであった。
賃金については、Xらは日給月給制であり、月給制の正社員に比べて、年収で7割程度、平均賃金日額では6割程度にとどまっていた。
Xらは、この格差は同一労働同一賃金の原則に違反し、公序良俗に反するとして、賃金格差相当額の損害賠償の支払い総額約1,896万円を求めて訴えを提起した。

<判決からのメッセージ>
「労働の価値が同一か否かは、職種が異なる場合はもちろん、同様の職種においても、雇用形態が異なれば、これを客観的に判断することは困難であるうえ、賃金が労働の対価であるといっても、必ずしも一定の賃金支払期間だけの労働の量に応じてこれが支払われるものではなく、年齢、学歴、勤続年数、企業貢献度、勤労意欲を期待する企業の思惑などが考慮され、純粋に労働の価値のみによって決定されるものではない」
→賃金は、労働の価値のみによって決定されるわけではなく、年齢、学歴、勤続年数、企業貢献度、勤労意欲を考慮して決定されるものであるから、長期雇用労働者と短期雇用労働者の賃金制度に差があっても契約の自由の範疇の問題であり、違法ではない。

<メッセージに対する私的見解>
本判決は、丸子警報器事件判決とは異なり、契約の自由を重視しており、非正社員であるXらと正社員とは雇用形態が異なる為賃金格差を適法としています。
ここで取り上げられた「雇用形態」の違いは、平成19年のパートタイム労働法の改正によって“差別的取扱いの禁止”(8条)としてより明確にされました。
「通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者については、パートタイム労働者であることを理由として、その待遇について差別的取扱いをしてはならない」
ここでいう「通常の労働者と同視すべき」場合の要件は、次の3点です。
1 通常の労働者と業務の内容とその業務の内容に伴う責任の程度が同一であること。
2 通常の労働者と転勤、職務内容の変更、配置の変更について同一であること。
3 期間の定めのない労働契約を結んでいる場合と期間を定めて労働契約を結んでいても、反復継続によって実質的に期間の定めのない労働契約と変わらない雇用関係の場合であること。
しかし、平成25年4月1日から改正される労働契約法第20条において、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違が、「職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情」によるものでなく、「有期契約労働者であること」によるものである場合は、その相違は不合理なものであると判断されることになります。
つまり、パートタイム労働法でいう③の要件が今後は短期労働者に限定され、フルタイムパートのような通常の労働者と同一の有期契約労働者には要件とならないということです。
経営者としては、ますます「業務の内容」が問われる時代を覚悟しておく必要があります。
以上です。

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