労務相談、管理者研修、未払い残業代請求対策なら労務管理センター

■労働契約の終了と解雇

      2016/02/09

労働契約法の条文をご紹介しながら、関連判例をみていきたいと思います。
今回は、労働契約の継続及び終了です。
第14条(出向)
第15条(懲戒)
第16条(解雇)
から成り立っています。
第15条と第16条をとりあげます。

(懲戒)
第15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

<懲戒とは>
懲戒は、労働者が企業内の服務規律に違反した場合や、企業秩序を乱す行為をした場合に、その労働者に対して企業が一定の制裁(不利益措置)を加えるものです。
その種類としては、戒告・けん責、減給、出勤停止(自宅謹慎)、降格降職、諭旨退職、懲戒解雇があります。
これらとは異なり、「人事上の措置」として、降格降職、休職、自宅待機などが労働者に命じられることがあります。
両者は、労働者にとって「不利益な措置」としては共通していますが、その理由が、「労働者の企業秩序違反」にあるのか、「労働者の能力の低下・喪失など人事上の理由」にあるのかという点で、区別されます。
「人事上の措置」については、就業規則上の取り決めに左右されることなく、実施されます。
ただ、使用者が人事権の行使の一環として行った降格降職であっても、客観的に見て企業秩序違反行為に対する制裁罰との性質をもつものについては、懲戒処分としての降格降職であると見て、本条を適用することになります。

<懲戒の種類>
懲戒の種類は、企業ごとに様々ですが、その中でも一般的な取り決めを、軽いものから順に見ていきましょう。
1.戒告・けん責
どちらも将来を戒める処分であるが、戒告は、労働者に始末書提出を求めないもの、けん責は、求めるものであることが多い。
2.減給
賃金を減給する処分である。労働基準法第91条に取り決めがある。一事案における減給額は平均賃金の1日分の半額以下、減給の総額は一賃金支払期の賃金総額の10分の1以下のものでなければならない。例えば、30万円で一事案5千円。複数事案の場合、一賃金支払期では3万円(6事案分)の制限がある。

3.出勤停止(自宅謹慎)
労働契約を存続させつつ、労働者の労働義務の履行を停止させる処分である。出勤停止期間中は賃金が支払われないと処分の意味がないため、年次有給休暇の使用を禁止するケースが多い。
4.降格降職
職能資格や役職を低下させる処分である。低下による減額は、懲戒処分の「減給」には該当しない。人事権の行使による降格降職とは区分される。
5.諭旨退職
企業側が労働者に退職を勧告し、本人の願い出によるという形で退職させる処分である。解雇とは異なる。そのため退職届は必ず取るようにしたい。退職金は、支払われることが多いが、一部減額される。
6.懲戒解雇
懲戒処分としての解雇であり、懲戒処分の中で最も重い処分である。退職金の全部または一部が支給されず、また、解雇予告を伴わないで即時解雇されるのが一般的である。

<懲戒の有効性判断と罪刑法定主義>
懲戒処分は、使用者が労働者に対して一定の不利益を課する制裁措置です。このため、当該懲戒処分の有効性を判断する際に、多くの裁判例では、刑事法の大原則である罪刑法定主義の考え方に基づき、この原則から導かれる派生原則を適用して、当該懲戒処分が認められるかどうかを判断しています。では、原則を見ていきましょう。
1.明確性の原則
懲戒処分とするには、懲戒の種類・程度が就業規則で明記されていること。
2.平等取扱いの原則
違反の種類・程度が同じ事案に対する懲戒処分は、同一の種類・程度であること。
3.不遡及の原則
懲戒規定をその作成・変更時点より前の事案に遡及して適用してはならない。
4.一事不再理(二重処分の禁止)の原則
同じ事由について繰り返し懲戒処分を行うことは禁止。
5.相当性の原則
懲戒の重さは違反の種類・程度と比較して、バランスのとれたものでなければならない。
6.適正手続保障の原則
懲戒処分を発動するには、本人に弁明の機会を与えるなど、適正な手続がとられなければならない。

<懲戒における留意点>
罪刑法定主義類似の諸原則に反する懲戒処分は、公序良俗(民法90条)に違反し、
または契約上の根拠を欠くものとして違法・無効となります。
懲戒が権利濫用とされる場合には、処分の無効に加えて、不法行為(民法709条)と
して損害賠償請求が認められることがあります。

(解雇)
第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

<解雇とは>
解雇は、使用者が労働者に対して一方的な意思表示をすることにより、労働契約を終了させることです。解雇は、一般に、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇があります。
1.普通解雇
労働契約を継続していくことに困難な事情があり、やむを得ず行う解雇で、整理解雇・懲戒解雇に該当しないもの。
2.整理解雇
企業の経営状態の悪化により、人員整理のために行う解雇。
3.懲戒解雇
労働者の職務規律違反、著しい非行による懲戒処分の一つとして行われる解雇。

<立証責任>
本条の下では「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」
という要件が満たされた場合に、権利濫用として解雇無効という効果が発生します。
そして、権利の濫用といういわゆる規範的要件の立証責任は、その評価根拠事実につ
いては、権利の濫用を主張する労働者が負い、権利濫用という評価を妨げる事実につ
いては、使用者側が立証責任を負うとされています。

判例については、整理解雇に関する裁判例を取り上げます。

整理解雇の有効性~東京自転車健康保険組合事件(東京地判平成18年11月29日)
【事件の概要】
Yは、健康保険法に基づき設立された公法人であり、国の健康保険事業全般を代行することを主たる業務としているところ、Xは、平成10年12月21日、Yとの間で、期間の定めなしとの約定で労働契約を締結してYに入社し、同日以降、総務課勤務を命じられた。
しかし、Yは、平成17年4月28日、Xに対し、「事業の運営上のやむを得ない事情により、健康相談室の廃止を行う必要が生じ、他の職務に転換させることが困難なため」という理由で、解雇予告を行い、同年5月31日をもって解雇した。
Xが健康相談室で勤務していたのは、同室が開設されている毎週木曜日の午前中だけであった。また、X,Y法人双方とも、解雇通知時までに、Xを他の職務に転換させる可能性について話し合ったことはなく、職員に対し希望退職を募ったこともなかった。
Xは、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、未払い賃金や賞与の支給、不法行為に基づく損害賠償請求等を求めて、訴えを提起した。

<裁判上の判断>
「一般に、解雇された従業員が被る精神的苦痛は、解雇期間中の賃金が支払われることにより慰謝されるのが通常であり、これによってもなお償えない特段の精神的苦痛を生じた事実が認められるときにはじめて慰謝料請求が認められると解するのが相当である。」
これを本件についてみると、
1.本件整理解雇は、Y法人において、退職金規程の改定、健康相談室廃止などの施策を実施しようとしたところ、これに反対するXが外部機関に相談すること等を快く思わず、整理解雇の要件がないにも関わらず、本件整理解雇を強行したこと。
2.Xは本件整理解雇時妊娠しており、Yは当該事実を知っていたこと。
3.XはYに対し本件整理解雇を撤回し、原職に復帰させるよう要求したが拒否されたことが認められる。以上によれば、Xは、本件整理解雇により、解雇期間中の賃金が支払われることでは償えない精神的苦痛が生じたと認めるのが相当であり、本件整理解雇の態様、Xの状況等本件証拠等から認められる本件整理解雇の諸事情に照らすと、その慰謝料額は100万円が相当であり、当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。よって、原告の慰謝料請求は100万円の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却することにする。」とした。
また、「整理解雇が有効か否かを判断するに当たっては、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続の相当性の4要素を考慮するのが相当である。使用者Yは、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性の3要素についてその存在を主張立証する責任があり、これらの3要素を総合して整理解雇が正当であるとの結論に到達した場合には、次に、従業員Xが、手続の不相当性等使用者の信義に反する対応等について主張立証する責任があることになり、これが立証できた場合には先に判断した整理解雇に正当性があるとの判断が覆ることになると解するのが相当である。」
⇒本判決では、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性のいずれについても立証されていないと判断された。

<整理解雇の4要素(要件)>
1.人員削減の必要性
昨今の裁判例では、経営状態の認定は詳細に行われますが、人員削減の必要性の判断については、原則として経営判断を尊重する傾向にあります。企業全体では好調であっても、当該事業部門が不振で戦略的に合理化を行うような場合でも、人員削減の必要性は肯定される場合が多いと言えます。必要性が例外的に否定されるのは、解雇直後に新規採用を行う等、外部から見ても明らかに矛盾した措置がとられているような場合に限られます。
2.解雇回避努力
人員削減の必要性が肯定されても、直ちに整理解雇が必要となるわけではなく、残業規制、中途採用中止、配転・出向、新規採用停止、有期契約労働者の雇止め、一時帰休、希望退職者募集等、様々な解雇以外の対処措置がありえます。これらの解雇回避措置を試みることなくなされた解雇は、権利濫用と評価されることになります。
3.対象者選定基準の合理性
解雇対象労働者の選定は、客観的に合理的な基準により、公正に行われる必要があります。合理性を否定される例としては、労働組合員や女性を対象とする等の法令違反(労働組合法7条、男女雇用機会均等法6条)の場合ですが、その他に、客観的基準を設けずに使用者の恣意的選択で行う場合も含まれます。
4.解雇手続きの妥当性
労働組合や労働者集団に対して整理解雇の必要性、その時期・規模・方法等につき説明・協議を行うことを信義即上要求しています。

4要件説によれば、4つの要件をすべて満たさなければ解雇が有効と認められないため、特にバブル崩壊後の不況下のリストラ事案において、ほとんど解雇は有効と認められないという問題もありました。そのため、裁判では、個別事案に応じ4つを
「考慮要素」として総合的に判断するという手法が採られる例も多く見られるようになりました(4要素説)。中にはまったく4つの要件あるいは要素にこだわらずに判断している事案も存在します。                  以上です。

 -