組織に共同体感覚を活かす
今回は、アドラー心理学の最重要コンセプト「共同体感覚」を取り上げます。
まず、「入会地(いりあいち)の悲劇」で破綻する社会を考えてみたいと思います。
「入会地」とは、みんなでいっしょに共有している土地のことです。今で言えば、例えば公園です。昔で言えば、集落の人みんなで使う山や海です。 その、みんなで使っている土地から得られる資源(果物、山菜、材木等)を、土地を共有している人たちが、限度を守ってそれぞれ適度に利用している場合には、問題はありません。 が、誰かがこっそり「自分一人くらいいいよな」とよけいに資源を使いはじめたら問題です。やがて、その”ぬけがけ行為”が「だってあの人もやっているし」と共有者みんなに広がってしまったら 、その使いすぎ量が一人一人ではわずかなものであっても全体としては大きな使いすぎになってしまい、しまいには共有資源が使いつくされて破綻に至ってしまいます。 みんなの小さないけない行為の積み重ね(「見えざる手の行い」と言われます)が、深刻な不利益になって、みんなにかえってきます。
このように、個人の利益の優先により公共財が成立しなくなることを、「入会地の悲劇」と呼びます。
このような悲劇を生まないために、アドラーは、共同体の維持を唱えました。
共同体を維持していくためには、共同体を形成する個々のメンバーが共同体感覚を所有する必要があると説きます。つまり、「共同体感覚」とは、「仲間に関心を持ち、全体の一部であり、人類の幸福に貢献すること」を基礎にする態度です。
では、職場に当てはめながら見ていきたいと思います。
◎仲間に関心を持つ(自己受容)
ずばり、職場の仲間に関心を持つためには、「自分自身に関心をもつ」ことです。
今現在の自分自身を棚卸ししてみることです。
1.自分はどんなことができるのか
2.自分はどんなことができないのか
3.自分はなにがしたいのか
4.自分はなにがしたくないのか
5.自分は自分を活きているのか
これを書き出して、身につけておくだけでも効果があります。
◎全体の一部になる(他者信頼)
対人関係を条件付きの信用ではなく、無条件の信頼で考えます。そのためには、「横の人間関係」を理想的な人間関係として捉えます。必要なのは次の4つです。
1.尊敬・・・人それぞれに違いがあるが、人間の尊厳に関しては違いないことを受け入れ、礼節をもって接する態度です。「おはようございます」「行ってきます」「行ってらっしゃい」「ただいま」「お帰りなさい」「失礼します」「お疲れ様です」声を出して顔見て言うことです。
2.信頼・・・常に相手の行動の背後にある善意を見つけようとし、根拠を求めず無条件に信じることです。自分にできないこと、自分がしたいこと、自分を活かすことを仲間に素直に求めることです。
3.協力・・・目標に向けて仲間と合意できたら、共に問題解決の努力をすることです。困っている仲間がいたら見て見ぬふりをせず声がけをすることです。自分のできることを開示することです。コピーやトイレの紙がなくなりそうなら自分で入れるなり取り替える姿勢です。
4.共感・・・相手の関心、考え方、意図、感情や置かれている状況などに関心を持つことです。相手の立場になって自分ならどう考えるか、言動するかを実践することです。相手の感情を理解しようとすることです。
課題の分離から共同の課題へ
およそあらゆる対人関係のトラブルは、他者の課題に土足で踏み込むこと、あるいは自分の課題に踏み込まれることによって引き起こされます。
対人関係をよりよくしようと思ったら、職場での関係において、「それは誰の課題?」と考えて、もつれた糸をいったんほぐして、その上で必要ならば、お互いに協力できるところを探り、手続きを踏んで、「共同の課題」にします。つまり、どちらかから相談・依頼があった場合、相手から迷惑を受けた場合に限定して、「課題の分離」から「共同の課題」に変更することになります。
◎人類の幸福に貢献する(他者貢献)
承認を求めず、自己犠牲のないまま、共同体に貢献できる人になることです。つまり、
共同体への貢献は、自分が自分らしく、自分の人生を生きるためにこそ必要なもので
あり、自分を犠牲にしたり、すり減らしたりしても意味はないということです。
「褒める・叱る・教える」から「勇気づけ」の関係に。
勇気とは、困難を克服する活力のことを指します。困難を克服する活力を与えるのが
勇気づけです。「褒められたいから」「叱られたくないから」は、評価者に対して依存
することになり、自立した人間の動きではありません。また、手取足取教えたり、
あらかじめ正解を教えることは、相手に対する甘やかしになり、自分で考え、行動す
る力がつきません。そして、あなたは賢い、あなたはよくやったは、「あなた」が主語
になっていて、僕は嬉しいは、横の人間関係で「わたし」を語ることになります。自
分の気持ちを伝えることが、勇気づけにつながります。最後に、自分への勇気づけ言
葉を持っておき、自分に語りかけることで、「天の声」となります。自分で自分を勇気
づけられる人間になれば、他者を勇気づけられるようになります。
「褒められたいから頑張る」 ⇒ 自分の力ではなく、相手に頼っている
「叱られたくないから頑張る」 ⇒ 本当の「勇気」を持つことではない
「手取足取教える」 ⇒ 「どうしたらいいですか?」
「あらかじめ正解を教える」 ⇒ 「あなたならどうしたい?」と聞き返す
「あなたは賢い」 ⇒ 「僕は嬉しい」
「あなたはよくやった」 ⇒ 「おかげで助かった」気持ちを伝える
「自分はダメだ」 ⇒ 「自分ならできる」
「もう無理だ」 ⇒ 「こんな問題、どうってことない」天の声