労務相談、管理者研修、未払い残業代請求対策なら労務管理センター

会社行事への参加したときの労災認定

   

10月になり、日中はまだまだ暑い日もありますが、朝晩は少しずつ秋を感じる季節となりました。この時期は温度変化により、体調を崩しやすいので、くれぐれもお気をつけ下さい。

10月からの短時間労働者の社会保険適用の拡大、来年1月からの高年齢者に対する雇用保険の改正など、いろいろと法改正がありますが、弊事務所としては、正確な情報を提供していきたいと思っております。

さて、今回は、会社行事等に参加した場合の労災についてです。

会社の行事には、歓送迎会や忘年会、運動会・社員旅行など親睦を深めるための行事がいくつかあります。もし、この会の最中、または 会の終了後に事故に遭った場合、労災が認められるのかが問題となります。労災認定がなされるためには、災害が業務上生じたものでなければならず、「業務遂行性」と「業務起因性」の双方を有することが必要となります。

過去の判例においては、会社の行事での労災が認められる場合というのは、なかなか難しいと言えます。一般的に、懇親会というのは、本来の業務の遂行もしくは、その業務に通常伴うべき行為ではないため、業務の一環とは認識されにくいからです。                                                                   とはいえ、労災と認められた判例もありますので、事例をあげてお話してみたいと思います。

《認められなかった例》

1泊2日で開かれた会社の忘年会に出席した従業員が、終了後に交通事故に遭い負傷したことが労災に該当するかが争われた判例です。

忘年会の参加は全員参加、費用は会社負担ではあったのですが、裁判所は、「会社が忘年会を実施した意図は、従業員の慰安と親睦のためであって、業務の打ち合わせなどがなかったため、一般の忘年会と変わりがなく、労働者が使用者の指揮命令に基づく支配下における勤務であったとは言い難く、労働者の本来の職務と密接な関係はない」として、業務遂行性は認められず、労災認定は却下されました。

《認められた例1》

銀行に勤務する労働者が、料理屋で開かれた支店長主催の期末預金増強の決起大会に参加中、階段から転落して死亡したというケースです。

労災の認定そのものが争われた裁判ではなく、遺族が会社に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を求めた事案ですが、会社に安全配慮義務違反があるかどうかを判断する前提として、業務中の災害にあたるかどうかについて触れられています。

裁判所は、

● 決起大会は、業務拡大目標達成のため、職員の慰労と志気の昂揚を図るために開かれたもので、銀行の公式記録にも記載されていること

● 費用は銀行と支店長負担になっていること

● 支店内にある会議室が狭いという物理的理由及び慰労の趣旨で料理屋が会場とされたこと

● 出席は、支店長の指示によるものであるため特別の事情がない限り出席せざるを得ないと各職員が考えており、実際に男子職員全員が出席したことなどの事情を認定したうえで、

「本件決起大会が被告銀行の業務に関連したものであることは明白であり、右大会への出席は任意ではなく、事実上業務命令とも同視し得るものであるから、本件事項は業務中に発生したものと認めるのが相当である」と判断しました。

《認められた例2》

一審、二審では労災認定されなかったのが、最高裁で逆転判決された例もあります。

職場の歓送迎会に参加した後、残業のため帰社中に交通事故で死亡した男性の妻が、国に労災認定を求めた訴訟で、一、二審判決では、労災にあたらないとして遺族補償の給付を認めず、妻が処分の取り消しを求めて提訴。「有志で親睦を深める私的な会合が業務とは認められず、上司が帰社を命じたとも言えない」として妻側が敗訴しましたが、最高裁では、「会社が要請した行動の中で起きた災害」と認め、二審判決を破棄し、妻側が逆転勝訴しました。

判決によると、男性は、社長への資料の提出期限が翌日に迫っていたため、会の参加を断っていたのだが、上司から「今日が最後だから」などと参加を求められ、残業を中断して送別会に参加しました。男性は社用車で研修生を自宅に送った後、会社に戻る予定だったが、途中で交通事故を起こし亡くなりました。判決は「資料の提出期限は延期されず、歓送迎会後に職場に戻ることを余儀なくされた」と認めました。最高裁は、事故当時、会社の支配下にあったというべきと判断しています。その他にも費用が会社から支払われ、送迎も社有車を使われたことも業務と関連があると判断されました。

《労災が認められるための判断基準》

上記の判例等を踏まえて、会社行事等においての事故で労災か認められるための判断基準をまとめてみますと

●全員参加が会社から強制されている。

●費用は会社から負担されている。

●会の趣旨が業務に関連している。(例えば、決起集会のような性質のもの・会の席で業務についての計画や方針等の内容の話がある)

●不参加の場合、欠勤扱いとされる。

といったような場合に、業務の一環とされ、労災認定となることもあります。

また、裁判所の判断基準は、上記基準だけではなく、いろいろな要素を総合的に考慮して判断されます。例えば、同じ会に出席していても、普通に飲食だけをしていた社員の場合は業務遂行性は認められないが、会社から、その会の幹事役を指示・命令をされ、世話役をさせられていた場合は、その幹事役に関しては、業務遂行性を認められた場合もあるのです。

一昔前のように、飲むニュケーションと称して、飲み会が普通に多かった時代に比べて、最近は、「任意だったらできるだけ行きたくない」「飲み会は半強制的で拘束されてるから、仕事の一環である」と感じる社員も多いと言えます。しかしながら、会社の懇親会などの行事は、大半が、本来の業務との関連性が薄いため、労災事故が起きた場合の業務遂行性が認められるためには、なかなか、ハードルは高いと言えるでしょう。

 

 

 

 -