十牛訓(じゅうぎゅうくん)
今回の雑感は、十牛訓をご紹介します。
第一番 尋牛(じんぎゅう)一人の牧童が、牛を尋ねて深い山の中にわけいっている状態。
「たずねゆくみやまの牛は見えずして ただ空蝉のこえのみぞする」
第二番 見跡(けんせき)牛をたずね求めて、山、また山と探しまわって歩いた牧童が、どうやらやっとのことで、とある谷川のほとりで牛の足跡を発見した状態。
「こころざしふかきみ山のかいありて しおりのあとを見るぞうれしき」
第三番 見牛(けんぎゅう)牧童が牛を見た状態。
「吼えけるをしるべにしつつあら牛の かげ見るほどに尋ねきにけり」
第四番 得牛(とくぎゅう)牧童が苦心惨憺の結果、牛をつかまえた状態。
「はなさじと思えばいとどこころ牛 これぞまことのきづななりけり」
第五番 牧牛(ぼくぎゅう)牧童が自分が発見して、つかまえた牛を飼いならして、育てあげようとする状態。
「日かずへて野飼いの牛も手なるれば 身にそう影となるぞうれしき」
第六番 騎牛帰家(きぎゅうきか)今までなつかなかった牛が牧童の思うように慣れてきて、牛の背中の上に乗って、のんびりと笛を吹いて、家に帰る状態。
「かえりみる遠山道の雪きえて 心の牛にのりてこそゆけ」
第七番 忘牛存人(ぼうぎゅうそんにん)牧童と一緒にいた牛がいない、牧童ひとりの状態。
「よしあしとわたる人こそはかなけれ ひとつなにわのあしと知らずや」
第八番 人牛倶忘(にんぎゅうぐぼう)何にもない、人も牛もともに忘れちゃった状態。
「もとよりもこころの法はなきものを ゆめうつつとは何をいいけん」
第九番 返本還源(へんぽんげんげん)梅の花が咲いて、ふくいくとしている状態。
「染めいだす人はなけれど春来れば 柳は緑 花は紅」
第十番 入鄽垂手(にってんすいしゅ)布袋さんが袋をぶらさげて店に入ってきた状態。
「身をおもう身をばこころぞ苦しむる あるに任せてあるぞあるべき」
第一番から第八番までが「自分のお願い」
第九番から第十番までが「他人のお願い」
現在の自分がこの十牛の何番目にいるかを考えて、一刻も早く第九、第十に入る人間になることを中村天風氏は説いています。