固定残業手当
「固定残業手当」
実際の時間外労働等の有無及び時間数に関わらず、一定時間の時間外労働がなされることを想定して定額の割増賃金を支給しておく制度。定額残業手当、みなし残業手当等としてこの制度を導入している企業は多く見受けられます。
しかし、現実の時間外労働により発生する割増賃金が固定残業手当を超えた場合に、固定残業手当しか支給せず、それを超えた差額の賃金を支給しないことは違法となってしまうので注意が必要です。
固定残業手当の有効性の判断として以下が挙げられます。
・固定残業代制度を採用することが労働契約の内容となっていること。
特定の労働者に対して適用するためには,労働契約・個別の合意の締結が必要となります。労働契約・個別の合意がない場合は,就業規則に規程があり、且つその就業規則が労働者に周知されていることが必要です。
・通常の労働時間に対する賃金部分と固定残業部分が明確に区別されていること。
労働契約書、就業規則または給与明細書などによって、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外の割増賃金に当たる部分とを判別できるようになっていることが必要となります。
・労働基準法の所定の計算方法による額がその額を上回るときは、その差額を当該賃金の支払期に支払うことが合意されていること。
現実の時間外労働等に基づいて計算される法定の割増賃金額が、固定残業手当や割増賃金の算出に含む他の手当のうち、残業手当相当分を超えている場合は、別途法定に満たない金額を支払う必要があります。
以上の要件を満たすことなく、固定残業手当の制度を導入することは、労働者や労働組合との紛争になった場合に企業側が不利になることも容易に想像できます。規程をしっかり設けておくことが重要でしょう。
また就業規則を労働者の不利益に変更する場合、以下を総合考慮して判断します。
・就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度
・使用者側の変更の必要性の内容・程度
・変更後の就業規則の内容自体の相当性
・代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
・労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応,同種事項に関する我が国社会における一般的状況
(第四銀行就業規則不利益変更事件・最二小判平成9年2月28日より)
労働者は,固定残業代における予定残業時間を超えて残業をしたならば,その分の残業代は当然に発生し,その支払いを請求できるというわけです。たとえ差額は支払わないとの規則等があったとしても、「時間外労働に対して割増賃金(残業代)を支払わなければならない」としている労働基準法の規定に違反する為、「支払わない」旨の規定は無効であると考えるべきでしょう。
要件を満たしながら正しい運用がなされていれば、固定残業手当の制度は認められている制度となります。規程が正しくなされているか、この機会に見直しをされてみてはいかがでしょうか。