パワハラ防止対策
2021/09/27
令和2年6月から職場のパワハラを防止するための雇用管理上の措置が企業に義務付けられました。(中小企業は令和4年3月まで努力義務)厚生労働省が7月30日に公表した令和2年度雇用均等基本調査によると、職場のパワハラの防止に取り組んでいる企業は79.5%となり、前回調査から大幅に上昇しました。具体的な対策では、「就業規則・労働協約等の書面で方針を明確化し、周知している」が62.7%と最も高い結果となっています。令和4年4月からは、中小企業も義務となりますので、まだ取り組まれてない場合には、早急に対策をご検討ください。
パワハラ防止法(正式名称:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)にパワハラの定義が記載されています。
第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
① 優越的な関係を背景としたとは・・・
「当該事業主の業務を遂行するにあたって、当該言動を受ける労働者が当該言動の行為者とされる者に対して抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるもの」とされています。
具体的には、●職務上の地位が上位の者による言動 ●同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験が有り、この方の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの ●同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの などが該当します。
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものとは・・・
「社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、またはその態様が相当でないもの」とされています。
具体的には、●業務上明らかに必要性のない言動 ● 業務の目的を大きく逸脱した言動 ● 業務を遂行するための手段として不適当な言動 などが該当します。
③ 労働者の就業環境が害されることとは・・・
「その言動により労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生じること」とされています。この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準とすることが適当であるとされています。以上3つの要素すべて満たすものがパワハラとして定義され、これを防止する措置が企業に義務付けられています。
パワハラの6類型
パワハラは大きく下記の6つに分類されます。
- 身体的な攻撃(暴行・傷害)
- 精神的な攻撃(脅迫・暴言)
- 人間関係からの切り離し(仲間はずれ・無視・隔離)
- 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
- 過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
- 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
非パワハラと逆パワハラ
- 私生活に関して、節度をもって助言や説得することは「個の侵害」にあたらない
私生活への介入がパワハラに当たるといっても、職場で、個人的な事、プライベートに関した話を一切してはならないということではありません。職場内のコミュニケーションとして有効である場合が多いですが、優越的な立場を振りかざして執拗にプライベートに介入するのはパワハラといえるでしょう。線引きは難しいのですが、お互いの人間関係が大切であることを認識して接することが大切なことだと思います。
- 厳しい注意や指導でも、その内容が妥当なものであればパワハラではない
指導する側の上司は、パワハラを恐れて部下の指導を躊躇していたら、人材育成ができず会社は立ち行かなくなります。上司やその管理職クラスの方たちは、職務上部下を指導する立場にありますので、パワハラを正しく理解して、恐れずに指導していただきたいと思います。たまに「自分自身が傷ついたことは、すべてパワハラだ」と誤解している部下もいますが、あくまでも業務との関連で決まります。あなたが傷ついたとしても、全部がパワハラになるわけではない。正当な職務命令には、あなたは従わなければなりませんよ。と伝えていただく必要があります。
- 職制上では下の立場であってもその立場を利用して行われた嫌がらせはパワハラ (逆パワハラ)
例えば、部下が上司の言動をパワハラだと言いがかりをつけて、上司に対するいじめや嫌がらせが行われた場合は、部下の行為のほうがパワハラに当たる可能性があります。パワハラか否かの判断の大前提である「立場の優位性」とは職場内の地位やランク、社歴、年齢が上であることと同等ではないということです。さらにその部下が結託するようなことがあれば、数の上でも部下が圧倒して、上司を孤立させることも可能になります。そして、それがパワハラに発展するケースも十分に考えられます。
相手のことを思った行動を心がける
パワハラについて定義や類型などご紹介いたしましたが、線引きがあいまいな部分もあって、状況によって裁判例も異なるので具体的な対策が立てづらいのが実際のところです。数百件パワハラ事案を担当したある弁護士先生が言うには、結局のところパワハラかどうかは、「相手のことを思った行動か否かできまる」とのことです。相手の為になる言動か否かが山積みの判例から導き出された境界線だそうです。注意や指導の際には、上手な叱り方ができるように意識していきたいものです。