月60時間超の時間外労働の割増賃金の適用について(中小企業の猶予制度の廃止)
2022/02/14
現行の労働基準法では、1か月に60時間を超える時間外労働について、その超えた時間については、50%以上の割増賃金率で計算した割増賃金を支払う義務があると決められています。これは、平成22年4月の法改正により、長時間労働を抑制し、労働者の健康と生活を守ることを目的として施行されました。これについては、中小企業においては、長い期間、猶予措置がとられていましたが、令和5年4月1日からは、この猶予措置が廃止され、中小企業にも適用されることになります。
令和5年4月1日からは、大企業、中小企業に関わらず、すべての企業において1か月60時間を超える時間外労働について、割増賃金率を50%として割増賃金を支給することが義務付けられます。さらに、深夜(22時〜5時)の時間帯に時間外労働を行わせた場合は、深夜割増率25%+時間外割増率50%=75%となります。
ただし、事業所で労使協定を締結すれば、引き上げ分の割増賃金の代わりに有給休暇を付与することもできます。
割増賃金の算定方法については、わかりにくいところもありますので、説明させていただきます。
■割増賃金の算定方法について
- 月給制の場合 支給総額(基本給+諸手当)÷1か月の所定労働時間数×1.25
- 日給制の場合 支給総額(1日基本賃金+諸手当)÷1日の所定労働時間数×1.25
- 歩合給制の場合 当該期間中の歩合給賃金総額÷当該期間中の総労働時間数×0.25
〇一人の労働者で基本給と歩合給の両方が支払われている場合は、割増賃金の算定を分けて計算する必要があります。歩合給制の場合は、所定労働時間数ではなく、総労働時間数で除するところに注意が必要です。また、0.25を掛ける理由は1.0に該当する部分は、すでに基礎となった賃金総額のなかに含められていますので、加給すべき賃金額は、計算額の0.25であれば足りることになります。
〇諸手当の中で割増賃金の基礎に算入しなくてもいい次の7種類の手当があります。
家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の7種類です。これらの手当は割増賃金の基礎に入れなくてもいいと認められていますが、逆にこれ以外の手当は必ず算入しなければなりません。また、名称がこの7種類の手当となっていたとしても、実態がその手当の趣旨に該当しない場合には割増賃金の対象に算入しなければなりません。
■法定休日との関係
1か月60時間の時間外労働の算定には、法定休日労働は含まれませんが、法定外休日(所定休日)の労働が時間外労働となる場合には、この時間外労働時間数もカウントされます。
■代替休暇の検討について
代替休暇とは、1か月に60時間を超える時間外労働を行った労働者に対して、労使協定を締結することによって、割増賃金を払う代わりに有給休暇を付与する制度です。ただし、割増賃金を全く払わなくてもいいわけではなく、基本の割増賃金率の25%の割増賃金は支給する必要があり、引き上げ分の25%の代わりを有給休暇に代える方法です。具体的な代替休暇の時間数の算定方法は
(1か月の時間外労働時間数―60時間)×換算率(代替休暇を取得しなかった場合に支払うこととされている割増賃金率 50%以上―代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増賃金率 25%以上)となります。
例えば、ある会社の時間外労働の割増率が30%、60時間を超えた場合の割増率が50%の場合で、1か月80時間の時間外労働をした場合の有給休暇付与の算定方法は、
20時間(80時間-60時間)×20%(50%-30%)=4時間となり、4時間分の有給休暇を付与することになります。
〇代替休暇は、1日または半日単位で、時間外労働が1か月60時間を超えた当該1か月の末日の翌日から2か月以内に与える必要があります。
〇代替休暇を取得するかどうかの労働者の意向確認の手続き、取得日の決定方法、割増賃金の支払日等を協定で定めておく必要があります。代替休暇の取得をするか否かは、労働者の意向に委ねられるため、使用者が取得を義務付けることはできません。
中小企業の猶予措置の廃止までは、まだ1年以上はありますが、常態として月60時間を越えて時間外労働が行われている企業では、人件費の影響は小さくないでしょう。長時間労働の問題については、今後も厳しくなっていくことは予想されますので、今のうちから、長時間労働を改善できるように、業務内容の確認や見直しをし、勤怠管理を適正に整えて対策を取っておくことが必要であると思います。