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不法行為責任と使用者責任

      2022/05/27

不法行為とは、故意または過失によって相手に損害を発生させることです。民法709条では、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と規定しています。

 

不法行為が成立する場合とは、以下の要件を満たした場合です。

 

1・その行為が故意または過失に基づくものであること。

2・他人の権利または法律上保護されるべき利益を侵害したこと。

(正当防衛・緊急避難が認められれば、違法性は阻却されます)

3・損害が発生していること。(損害は財産的なものだけではなく精神的なものも含み、精神的苦痛を被った場合にはその精神的苦痛を損害と見ることが可能です)

4・行為と損害の発生との間に因果関係があること。

5・行為者に責任能力があること。(一般的には12歳以上ぐらいと言われています)

 

不法行為が成立した場合、その行為を行った者は、相手に対して損害賠償をする責任が生じます。不法行為といえば、一般的には、交通事故や暴力事件などを思い浮かべますが、最近では会社内でのパワハラやセクハラなどに関して、不法行為が認められるケースも増えています。

 

また、不法行為には使用者責任というものがあり、使用者責任とは、不法行為の類型のうち特殊不法行為の一種と言われます。使用者責任について民法715条では、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と規定しています。根拠としては、会社は従業員を雇って、従業員を活動させることにより利益を得ているのだから、その活動によって損害が生じた場合は、その損害も負担すべきという考え方です。もう一つは、会社は自らの事業のために従業員を活動させることによって、社会に対して危険を及ぼす機会を増大させているので、会社が危険を生み出す者、危険を支配する者として、賠償責任を負うべきという考え方です。

 

使用者責任が成立する要件とは

 

1・従業員が不法行為をし、第三者に損害を与えたこと。

前提として、従業員の行為が上述の不法行為の要件を満たしていないと、使用者責任も負うことはありません。

2・不法行為時に使用者と加害者(従業員)との間に使用関係があること。

この使用関係は、事実上に指揮監督関係があれば使用関係ありとみられ、広い範囲で認められる場合もあるので注意が必要です。

3・従業員の不法行為が事業の執行において発生したものであること。

4・使用者としての免責時効に該当しないこと。

これは、使用者が従業員の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときであれば、それを立証することによって、使用者責任は免責されるとしています。しかし、現実には免責を認める例はあまりなく、使用者責任は、事実上「無過失責任」と言われています。

 

では、使用者責任が問われるよくある事例をみてみますと

  1. 業務中に従業員が社用車等で交通事故を起こし、それについて従業員に不法行為責任が認められた場合、業務執行中であるため使用者責任が発生します。
  2. 従業員同士がけんかをして損害が発生した場合、プライベートな問題のけんかであれば、使用者責任が問われることはありませんが、けんかの原因が事業の執行をきっかけに行われた場合は、使用者責任が問われる可能性があります。
  3. 社内のパワハラ・セクハラ・いじめ等により、損害が発生した場合、使用者である会社も使用者責任が問われる可能性があります。

 

求償権について

被害者が受けた損害に対して、会社と従業員は連帯して賠償する義務を負い、これを「不真正連帯債務」といいます。会社が被害者に損害賠償をした場合、会社は加害行為をした従業員に対して求償することができます。その場合、どのくらいの割合まで求償していいのか明確な規程は法律上定義されていません。この点について判例では、「事業の性格その他諸般の事情に照らし、使用者の被用者に対する求償は、損害の公平な分担という見地から、信義則上相当と認められる限度に制限される」と判断されています。現実的には、会社と従業員の話合いによって決めることになるでしょう。

 

会社に使用者責任が生じれば、事案によっては会社に多大な損害が生じる可能性があります。まずは、従業員の不法行為を防ぐことが重要となりますが、実際起きてしまうことはあります。会社の予防策として、朝礼等で注意を促したり、研修等を行ったりすることで、従業員に対して危機意識を高めることから、効果につながることと思います。また、パワハラに関しては、パワハラ防止法の義務化により、必要な措置をすることによって、ある程度の効果が得られるのではないのでしょうか。

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