身元保証書の提出の目的と留意点について
2022/07/19
従業員を採用する際に、雇用契約書を交わすことは一般的ですが、身元保証書の提出を求める企業も多くあります。身元保証書とは、従業員が使用者に損害を与えた場合に、その損害について身元保証人が従業員本人とともに賠償する責任を記した書類のことです。原則は本人が賠償する責任を負うのですが、本人の支払能力が不十分な場合に備えて身元保証人にも連帯して損害賠償の責任を負う義務を設定しておくことです。
身元保証書を提出させる目的には、損害賠償責任以外に別の目的があります。
それは、人物保証の目的です。つまり、本人の人物像に問題がないということを証明するということです。履歴書や職務経歴書は自己申告のため、なかには虚偽の報告もあり得ますので、身元保証人に本人の経歴や素性に問題がないということを保証させるという目的があります。さらに、従業員に何か問題があったとき(例えば、メンタルの不調により欠勤が続いている場合や、行方不明になって連絡がとれなくなっている場合)などに、身元保証人の協力を得て状況の確認をとることや、解決を図ることを目的としています。
このように、身元保証書の目的は①損害賠償責任という金銭保証としての目的と②人物保証としての目的の2つに分かれます。後述しますが、2020年4月の民法改正により①の金銭保証としての機能をつける場合には、賠償請求をする上限額(極度額)を定めなければならなくなりました。そのことが困難であれば、②の人物保証としての機能をつけることだけでも可能となっています。
〇身元保証契約の有効期間
5年を超えて定めることはできません。5年より長い期間を定めた場合でも5年に短縮されます。期間を定めなかったときは原則として契約のときから3年となります。期間に限度がありますが更新は可能です。その際も更新時から5年を超えて定めることはできません。
また、契約等でよく使われる自動更新を定めておくことは認められていません。これは、いくら身元保証人といえども、従業員本人から生じたすべての責任を負うというのでは、責任を負うべき範囲が拡大しすぎてしまうからです。
〇身元保証人が負う損害賠償額
身元保証人が負う責任の賠償金額は裁判所が決定した合理的な額に制限されます。現実的には会社の監督や管理体制の責任も考慮されるため全額ということはほとんどなく損害額の2割から3割程度に留まることが多いようです。
〇身元保証人が負う賠償額の限度額
2020年4月施行の民法の改正により個人を保証人とする根保証契約全般について極度額の定めが必要となりました。極度額とは身元保証人が責任を負う上限額のことで極度額の定めのない契約は無効となります。
〇身元保証人への情報提供義務
従業員が業務上不適任または不誠実な行為をして会社に損害を与えそうな恐れがある場合や、業務内容の変更や異動があった場合に、そのことによって身元保証人の責任に影響を及ぼす場合には、このことを会社は身元保証人に通知しなければなりません。さらに民法改正により、従業員に債務(会社に対する損害賠償債務)が発生した場合には、債権者である会社は身元保証人に対して債務に対する履行状況に関する情報を提供しなければならなくなりました。
〇身元保証人からの契約の解除
身元保証人が、前述の情報提供の通知を会社から受けた場合、保証人を受けられないと判断した場合には、身元保証法によって契約解除が可能となっています。また、会社から通知がなかった場合でも、保証人がその事実を知り解除を希望すれば解除することが可能です。
このように、身元保証人を守る法律があり、実際に従業員によって会社が損害を受けた場合であっても、会社の管理監督責任にも落ち度がなかったかを考慮されるため、会社が全損害について責任を追及することは難しいと思われます。
会社としては、そのことを認識しておき、普段から損害が発生しないような管理体制を整えておくことが重要です。