ナッジ理論
ナッジとは、金銭的インセンティブや罰則を用いずに、相手の意思決定の癖を利用して行動変容を促すものです。ナッジ理論は、2008年に米国の経済学者のリチャード・セイラー教授と法学者のキャス・サンスティーン教授によって提唱されました。2017年にセイラー教授がノーベル経済学賞を受賞したことで、ナッジ理論が一層注目されるようになりました。ナッジ理論は、行動経済学に分類されるものです。
意思決定の癖の例としては、① 初期設定・初期値を選びやすい ② 社会規範を感じると、みんなと異なっている状態やマナーに欠ける行動に後ろめたさを感じる ③ 「多くの人がそうしている」のような情報があると決断しやすくなる です。それぞれの活用例を見ていきます。
① 初期設定・初期値を選びやすい
健康診断やがん検診の受診率向上に活用する自治体が増えているそうです。「このチケットがあれば1万円引きで乳がん検診を受診できます。」東京都八王子市は8月、ここ数年、受診歴がない市内の女性約2万 2000人に「1万円割引券」を入れた勧奨通知を送ったそうです。八王子市は以前、「自己負担2000円で受診できる」と安さをアピールしていたそうですが、支払う金額は2000円で変わりがないですが、補助額を割引券という形で明示することで、お得感を演出して「割引券を使わなければ損」という感情を抱かせ、受診を促す狙いがあるそうです。つまり勧奨通知の初期設定を変えたわけです。
② 社会規範
熊本地域医療センターでは、看護師の超過勤務が多く、離職率も高いことから問題となっていたそうです。超過勤務の要因の一つに、引継可能な業務を、勤務終了時刻が過ぎてからも引き受けてしまっている現状があり、本来残業は指示業務のはずが明確な指示がなくても暗黙の了解として使用者側が指示したことにしている組織がほんとんだったそうです。
そこで、「看護師ユニフォーム2色制」を導入し、日勤のユニフォームをピンク、夜勤のユニフォームを緑にしたそうです。その結果、日勤一人当たり年間平均残業時間が、111.6時間から5年後には21.7時間までに激減し、離職率も20%超から9.9%に低下したそうです。これは、残業していると自分だけユニフォームがピンクになり、緑が普通だという社会規範を感じてしまうことを利用したそうです。周りの人も仕事を頼みにくくなったみたいです。
③ 情報提供
よく薬剤師さんからジェネリック医薬品でもよろしいですか?といわれますが、一瞬、ブランド医薬品の方が効きがいいのかなと思ったりして、即答できないことがあります。そんな時に、「皆さん、ジェネリック医薬品を選択していますよ」と事実を伝えてもらえると、安心して「お願いします!」と応対できる自分が居たりします。つまり、相手の意思決定の負担を減らしているわけです。
ナッジ理論を使うときの留意点は、「その選択が果たして本人のために良いものかなのかどうか」この姿勢がとても大切だと思います。大した金額もかけずに大きな効果を生むことが出来るなら、いろいろな場面で良識的に活用していきたいと思います。