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トラック運転者の改善基準告示の改正について

   

検討が続いていた「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」の改正が昨年12月23日にようやく行われ、令和6年4月1日に適用されることになりました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/roudoujouken05/index.html

この改善基準告示は、運転する車両の種類ごとに定められていて「タクシー・ハイヤー運転者」、「トラック運転者」、「バス運転者」とに分かれていますが、今回はトラックに焦点をあてます。

トラック運転者には、一般的な労働時間の考え方とは別に、一勤務と次の勤務との間の、会社の指揮命令下にない全く自由な時間である「休息時間」と、始業時刻から終業時刻までの休憩時間を含めた「拘束時間」と呼ばれるものがあります。

この「休息時間」が、現行の”継続8時間”から”継続11時間以上を与えるように努めることを基本とし、継続9時間を下回らない”に改正されます。「拘束時間」は、1日、1か月、1年とでそれぞれ限度時間が決められており、1か月と1年の上限時間が、改正で短く設定されます。

1日は24時間なので、「休息時間」を11時間とすると、残りの13時間が「拘束(可能)時間」となり、休憩時間1時間を差し引いた12時間が、運転・整備・荷受け・荷下ろしなどの実作業を行える労働時間となります。「拘束時間」には休憩時間も含まれるため、1日あたり時間外労働を4時間弱に抑えることが目安となりそうです。

昨今、どの企業でも言われている「人手不足」は、運送業も例外ではなく、特にトラック運転者については、他の業種と比較して高齢化が進んでいると言われています。運送業者は、トラック関連の健康保険組合に加入していることが多いのですが、数年前には加入者の高齢化が進んでいる証として、介護保険料率の引き下げがされた年もありました。 “被保険者の年齢構成が高年齢者に偏っていることで、介護保険に関わる医療費が十分賄えている”と言ったところでしょうか。

また、貨物自動車による事故防止のために平成19年6月に施行された、中型免許制度の改正も、皮肉なことに若年層の中型免許取得が進まず、トラック運転者の高齢化に繋がっていると言われています。

昔は普通自動車免許取得で得られた中型免許資格も、わざわざ追加でお金と時間を使って資格取得するほどの魅力も必要性も感じられず、たとえ資格取得してもそれを即回収するほどの収入が得られる業種ではなくなってしまったことも現実問題とのことです。

新聞やニュースにも取りあげられる、運転者の居眠り運転が原因とされる、バスやトラックの事故。車両が大きく重たい分、衝突時のダメージも大きいため、悲惨な事故に繋がるケースも多くあります。そしてその要因として言われるのが、人手不足による長時間労働です。座った姿勢が長く不規則なことが影響して、肥満による生活習慣病の運転者も多く、健康問題による事故も懸念されています。

悲惨な事故は二度と起きて欲しくないと、誰もがそう思います。しかしながら、便利に使っているネットショッピングも、その品物がスマホ操作だけでご自身の手元に届くまでに多くの物流を経由していることを、日常でどれだけ認識できているでしょうか。時間指定していたにも関わらず、仕事が片付かずに残業し、家に帰ると不在連絡票が入っているというパターンは、皆さんも経験がありませんか。

最近は宅配ボックスも増えてきましたが、大きな荷物は入らず持ち帰り、集合住宅の宅配ボックスであればボックスの空きがなく持ち帰り…とまだまだ1回の配達で完了できるまでには至っていません。

今回の改善基準告示の改正は、5年間の猶予が設けられている、自動車運転者の時間外労働の上限規制にあわせたものです。令和6年4月1日からは、年960時間の時間外労働の上限規制が適用されます。

法律で規制すれば長時間労働がすぐに減るような、簡単なものではありません。事業主が従業員を野放しにして、長時間労働が続いているわけでもありません。人手不足でも物流を止められない現実があるのです。

長時間労働の削減に向けて、各社さまざまな改善や努力をされています。厚生労働省や労働局の資料でも、発着荷主等に対しての改善に向けた取組が紹介されていますが、人件費確保のためでもある値上げ交渉は、自社で動くしか手段はありません。会社間の契約内容に見合った金額交渉も、容易ではないことは想像できると思います。

トラック運転者が、今回の基準改正を十分にクリアできる働き方ができ、業種のイメージが回復して、将来は運転手になりたい子供たちを増やすために、運送業ではない私たちにもできることはあります。ネットショッピングを楽しく続けるためにも、トラック運転者の労働についても、ぜひ関心を持っていきましょうね。

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