会社と社員の関係
経営者の命令を社員に徹底させる上意下達(じょういかたつ)の関係から、社員の意見を引き出して尊重する方式が増え、フラット化(対等化)が「いい職場」の証になってきています。「悪い職場」は、ワンマンでイエスマンばかりを優遇する物言えぬ組織となります。物言う自由で全てが解決できるわけではありませんが、会社と社員が自らの価値を問い続ける雰囲気が醸成されることになります。そのためにも評価において、会社の命令に従順なだけの人より、意思決定をし、アイデアを出す社員が高く評価される必要があります。つまり、リスクを負う社員にスポットを当てつづけることが必要となります。
ファミリーマートの親会社である伊藤忠商事では管理職約300人に部下がつけた点数やコメントを伝える制度があり、人事評価や処遇には一切反映しませんが、部下の本音に触れ多様な価値観を理解することに活用しています。それが、「目の前の仕事だけでなく部下の特性を踏まえた育成」につながり、評価や処遇から切り離すことで、「厳しく言うべきときは言わなければ、必要な指導にならない」というパワハラではない業務指導をためらわせないことになると、考査ユニットリーダーの能登隆太氏は述べています。
では、ここで視点を変えて、人は何のために働くのでしょうか。綺麗ごとを言わなければ、「お金」のためです。そのお金が、世界の常識と日本の常識に差が生じてきています。経済協力開発機構(OECD)によると、加盟国の平均賃金が30年前に比べ35%増えたのに、日本はわずか5%増です。具体的には、2021年国税庁民間給与実態によれば、正規男性の平均は年収570万円、女性は389万円です。非正規男性は267万円、女性は162万円です。それに対して、OECD加盟国による平均賃金は、130円換算で680万円です。確かに日本には、他国にはない、年功序列と終身雇用という「雇用安定」の仕組みがあり、「日本型」として世界から注目を浴びた時代がありました。ですが今日では、生産年齢人口(15歳から64歳)に占める非正規雇用者が40%(約2400万人)にも達し、当該雇用者の平均年収は200万円という国となってしまいました。要因として、「団体交渉から取り残される会社員」と題して、労働組合の組織率の低さや産業別主体の欧州と違い単一組合であることを挙げる新聞もあります。ただ、現在の野党の存在をみれば、要因への取組対応に諦め感がただよいます。となると「お金」を上げることが手っ取り早い対策となります。
政府の呼びかけや、物価の高騰もあり、大幅な賃上げに踏み切る会社が、特に大企業で顕著になってきています。お金さえ上げれば、前述の物言う自由さえ保障されれば全ての課題が解決されるわけではありませんが、「人のやる気」にはなると考えます。かってのように世界から目標とされる夢のある国に復活するためにも、大企業だけでなく、中小企業も賃上げで「人の尊厳」を守る必要があると考えます。背に腹は代えられません。今一度、会社にとって最も大切なのは何なのかを問わなければいけませんし、問われていると思います。