医師の残業規制と宿日直の許可
一般産業界の残業ルールは時間外労働の上限を原則として月45時間、年360時間とした上で、労使が合意した場合の特例として年720時間まで認めるというものです。
2024年4月に医師に適用するルールは勤務する医療機関の特性や医師の習熟状況によって特例を3つに分けます。時間外労働の上限を年960時間とするのを基本ルールとしつつ、救命医療など緊急性の高い医療を提供していて地域医療を確保するのに必要と判断された場合や、研修医や専攻医が診療現場で集中的に技能の習得を目指す場合などには、年1860時間まで時間外労働の上限が緩和されます。
顧問先である産婦人科のクリニックは、常勤医師が1人、非常勤医師が2人で、宿直や日直を助産師または看護師との3人体制で対応しておられます。ちなみに宿直とは、緊急電話の受理、外来者・入院患者の突発対応などの通常業務とは異なる業務に従事するもので、夜間にわたり宿泊を要するものです。医師については、ほとんどが睡眠等の休息時間であることが前提となります。そして、勤務内容は宿直と同等で時間帯が主として休日の昼間であるものを日直といいます。当該業務については、労働基準監督署長の許可を受けることにより、宿日直中は、時間外労働時間等、労働時間とは扱われなくなります。ただし認可基準があります。
1 勤務の態様
常態として、ほとんど労働をする必要のない勤務であり、通常の勤務の継続ではないこと
2 宿日直手当
宿直または日直勤務1回の手当の最低額は、申請を行う事業場において宿直または日直の常勤勤務予定者に支給される賃金の1人1日平均額の3分の1以上
3 宿日直の回数
宿直勤務については週1回、日直勤務については月1回
4 宿直勤務については、相当の睡眠施設の設置が条件
以上を顧問先であるクリニックに当てはめた場合、1人の非常勤医師の宿直回数に問題がありました。この問題を院長先生と話し合い、2月からクリアしました。なお、宿日直手当については、院長先生しか常勤医師は居ないため、令和4年度賃金構造基本統計調査による医療機関同規模のきまって支給する現金給与額から算出し、全く問題なくクリアしました。
結果、労働基準監督署に断続的な宿直又は日直勤務許可申請書を先日提出し、監督官の実地調査を待つのみとなりました。この申請については、愛知県医療勤務環境改善支援センターのアドバイザーの方に丁寧に指導いただき、監督署へも同行していただきました。実地調査にも立ち会っていただく予定です。
そもそもこの申請書の相談を受けた時には、正直、当該クリニックには無関係だと思っていました。十分な勤務手当を非常勤の先生には支給しているし、許可を取る必要などないと思っていました。それが、所属する大学病院からの再々の要請により、事の緊急性を認識しました。この申請が許可されない場合は、大学病院からの非常勤の先生達が引き揚げることになるからです。これによりクリニック側はひと安心ですが、当の非常勤の先生達にとっては、「収入が減る」ことになるそうです。独立するか、教授になるか、または専攻医・管理職としてスカウトされるか、しない限りは勤務拘束時間に見合う報酬は手にできないのでしょうか。助産師の争奪も深刻です。看護師のできる医療行為も増えつつはありますが、その分リスクも伴います。当該クリニックでは、休日を増やす為、1か月単位の変形労働時間制も導入してきました。年次有給休暇の管理も婦長さんが中心に行っています。クリニック内のトラブルには院長先生の奥様が中心となって対応しておられます。私も顧問社労士として今後も、命を生み出す業界の生き残り施策の一翼を担っていければと思います。