■管理監督者なんてほとんど存在しない!?(金澤)
2016/02/21
先日、弊社開催の判例セミナーにご参加いただいた皆様、お忙しいところご足労いただきましてありがとうございました。私は弊社ホームページの「SPC労働判例集」を担当しておりまして、毎週最新判例についての記事を掲載しております。なるべくわかりやすくお伝えできるよう心掛けておりますので、よろしければ毎週チェックしてくださいね!
本日は、セミナーでさらっとしか触れることができなかった管理監督者についてお伝えしたいと思います。
管理監督者に該当するか否かは、以下のポイントで判断されます。
1)職務内容
労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にあり、労働時間等の規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容であること
2)責任と権限
経営者から重要な責任と権限を委ねられており、自らの裁量で行使できる権限があること
3)職務態様
出退勤を厳格に規制されず、自己の勤務時間について自由裁量を有していること
4)賃金などの待遇
定期給与、賞与、その他の待遇において、一般労働者と比較して相応の待遇がなされていること
常々思うのですが、この要件・・・漠然としていて分かりにくすぎると思いませんか?管理監督者か否かを争った判例はいくつもありますが、かなりの割合で会社側が敗訴しています。上記4つの要件を全て満たすことは、事実上かなり困難であるためです。
経営者側としては、残業代を支払う必要がない「管理監督者」は多くしたいものですが、故意に法違反をしているケースばかりではないかもしれません。要件が分かりにくいことも大きな要因のひとつでしょう。
という訳で、要件の中で私が個人的に気になった「4.賃金などの待遇」について、「一体いくら支払えば、管理監督者にふさわしい待遇といえるのか?」を判例から検討してみたいと思います。
それには、数少ない「会社が勝訴したケース」を検討する必要があります。とりあえず3つ、会社勝訴の判例での待遇がいくらだったのか見てみましょう。
<姪浜タクシー事件(福岡地判H19.4.26)>
約700万円の報酬を受けており会社の中では最高額であったことを認定。
<東和システム事件(東京高判H21.12.25)>
基本給46~47万円(年間560万円程度)で、ことさらに低額に抑えられているとは言い難い。
<日本プレジデントクラブ事件(東京地判S63.4.27)>
会員制クラブの総務局次長について、経理、人事、庶務全般の事務の管掌を委ねられ、その地位に相応した職務手当及び役職手当をうけていたこと等の事実を認定して該当性を認めたもの
(月額給与330,400(年間400万円程度)円のうち、役職手当30,000円を支給)
この3つを見るだけでも分かるのは、「判例によってバラバラ」という事実です。結局、「年収いくらなら絶対大丈夫!」とは言えないということですね。
しかし、金額以外にも重要なポイントがあることが分かります。
1)その会社の中で比較して、高額なのかどうかで判断される。
(よって、大企業か中小企業かによって、求められる金額も異なる)
2)給与の中で「役職手当」のような、一定の役職に対して支払われる手当が支払われていると、管理監督者性があると判断されるためのプラスの要素となる。
管理監督者性をめぐる裁判の中で一番有名な「日本マクドナルド事件」では、店長の年収は評価により分かれており、S評価、A評価、B評価の店長ならば、店長より下位の職位である
「ファーストアシスタントマネージャー」の平均年収を上回るが、店長全体の10%を占めるC評価の店長は、ファーストアシスタントマネージャーの平均年収を下回ってしまう点、いわゆる「逆転現象」が問題視されました。
さらに、店長自身の平均時間外労働はファーストアシスタントマネージャーの平均を上回っていることからも、店長への待遇が「労基法の適用を排除される管理監督者に対する待遇としては十分であるとは言い難い」としています。
つまり、
3)管理監督者よりも下位の者らと比較して、逆転現象が起こってはいけない。
4)例え年収が相対的に高額であっても、実際の労働時間が長いために、時間単位にしたときに非管理監督者の者よりも賃金が低くなるような場合は認められない。
ということも言えそうです。
残業代が支払われない管理監督者は、実労働時間が増えるほど時間単価が下がるため、単純に年収が多ければ良いというものではないということですね。
残念ですが、判例を検討しても、具体的な線引きができるような基準を発見することはできませんでした。
しかし、いくつか参考となるポイントは見つかりましたので、よろしければ参考にしてください。
身も蓋もないことを言ってしまえば・・・一番安全なのは、役員以外の者は、全て管理監督者ではなくしてしまい、残業代を支払うということだと思います。「みなし残業代」などを活用すれば、人件費の上昇をある程度防げますが、不利益変更となる可能性があるので、個別の同意を取っておくことをお勧めします。