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■有給休暇の計画的付与制度

      2016/02/21

有給休暇は、入社して6か月経過後、所定労働日の8割以上の出勤した者に与えられる権利ですが、たいていの会社では、有給休暇を全部消化することは難しく、従業員が退職するときに残りの有給休暇をまとめて請求し、退職日まで出勤しなかったり、あるいは会社側が許可をせず、労働者とトラブルになってしまうということもよくあると思います。そのため、引き継ぎが中途半端になってしまうといった問題も起きてきます。また、繁忙期にまとめてとられたりしてしまうと業務に支障がでてくることもあります。

有給休暇は、労働者の権利として法律上付与されたものなので、事業主は請求された場合は断ることはできません。一応、使用者側の権利として時季変更権(やむを得ない事由がある場合には、請求された時季を変更することができる権利)がありますが、退職が決まってからは日にちもあまりありませんので、この時季変更権を行使することは難しく、有給休暇を与えるしかありません。このような場合の会社側の予防策としては、日頃から、有給休暇の取得を奨励し、残日数を少なくする方法で対処するのがいいと思います。

具体的には、年次有給休暇の計画的付与という方法です。
計画的付与とは 会社側が、労働者の年次有給休暇の取得日を前もって決めることができることですが、勝手に会社が決めることはできませんので下記のような注意が必要です。

1・付与日数のうち5日を除いた残りの日数を計画的付与の対象とする。

年次有給休暇の計画的付与は、年次有給休暇の付与日数すべてについて認められているわけではありません。それは、従業員が病気やその他の個人的な理由で利用する時のために残しておく必要があるからです。 よって、例えば有給休暇が20日の人は5日を除いた15日が計画的付与の対象の日数となります。

2・計画的付与の活用方法

計画的付与制度は企業の実態に応じていろいろな方法で実施できます。
(1)企業全体の休業による一斉付与方法
夏期休暇・年末年始に付与することによって大型連休とすることができます。
(2)部署別、課別、などのグループ別の交替制付与方法
(3)年次有給休暇付与計画表による個人別付与方法

などさまざまな方法ができますので、導入に当たっては、このような方法のなかから企業の実態に合った方法を選択するのがいいと思います。

3・計画的付与導入の手続の手順

(1)就業規則に計画的付与について規程します。
「年次有給休暇のうち5日を超える日数については、労働者の過半数を代表する者との間に労使協定を締結したときは、その協定に定める時季に計画的に取得させることとする」と規程しておく必要があります。
(2)労使協定を締結します。
就業規則に規程したら、それに基づいて労働者の過半数で組織する労働組合(労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)と労使協定を締結します。労働基準監督署への届出は不要です。
その際の労使協定で定める項目とは
・計画的付与の対象者
・対象となる年次有給休暇の日数
・計画的付与の具体的な方法
・対象となる年次有給休暇がない者の取扱い
・計画的付与日の変更

4・不利益変更にならないか

この計画的付与ということに変更すること自体が労働条件の不利益変更にならないのか?ということですが、もともと、日本の企業においては、有給の取得率はあまりよくない状況と思われ、この計画的付与制度が有給の取得率を上げるという目的の制度である点で、結果的に有給の取得率が向上するのであれば、それは不利益変更とまではいえず、また、計画的付与は労使協定を締結することが要件でありますから、労働者側と協定しているという点で労働者との合意があり、会社側が一方的に決めたわけでなないことがわかりますので、不利益変更にはならないと考えられます。

5・その他注意事項

計画的付与を行った場合は 労働者の時季変更権及び使用者の時季変更権はともにできなくなりますので注意が必要です。
また、この計画的付与を行った時点で、有給休暇が発生していない社員及び、有給休暇日数が計画的付与された日数より少ない労働者については、休みにした場合、欠勤となってしまいますので、特別に「特別の休暇を与える」「付与日数を増やす」などの措置をとる必要があります。
また、その特別な措置をとらない場合は、休業手当(平均賃金)の6割を払う必要性がでてきてしまいますので、注意が必要です。

このようにデメリットもありますので 一概にいいとはいえませんが、退職する労働者が、残っている有給休暇を全部、退職前にまとめて取りたいと言われれば、会社は拒否できないため、認めざるをえなくなります。そのようなことを回避することができますので、それなりのメリットはあるのではないのでしょうか。

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