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■持ち帰り残業と黙示の業務命令

      2016/02/21

先日、ニュースで、2011年に起きたある英会話学校の女性講師が自殺したのは、自宅で長時間労働をする「持ち帰り残業」が原因だったとして、労働基準監督署の労災認定がなされたとの報道がありました。
労基署は残っていたメールや関係者の話から、女性は業務命令で英単語を説明するイラストを描いた「単語カード」を2千枚以上自宅で作っており、持ち帰り残業があったとしました。残業時間を把握するために、労基署員が実際にカードを作成して時間を計測し、自宅で月に80時間程度の残業をしていたと結論付けました。 この結果、会社での残業を合わせると恒常的に月100時間程度の時間外労働があり、さらに上司から怒られる心理的負担も加わり、うつ病を発症していたとして、労災を認定しました。

今までは、持ち帰り残業は時間の把握が困難であるとし、労災認定がされないのがほとんどでしたが、今回のように証拠を集めて実証して認定したというのは、労働基準監督署が過重労働や過労自殺を撲滅しようと本気であることを示していると言えます。

最近では、パソコンがあればどこでも仕事ができるようにもなり、管理者の見えないところで仕事が行われやすい環境にあるといえます。原則的に社員が自分の判断で家に持ち帰った仕事はその時間は法律上労働時間とは言えないため、残業代を払う必要はありません。賃金を払わなければいけない労働時間というのは下記のように、「労働者が使用者の指揮命令下におかれている時間」のことをいいます。

1・どこで業務を行うのか一定の場所的な拘束があること
2・何時から何時まで業務をするのか一定の時間的な拘束があること
3・態度や規律、秩序を守って業務を行う必要がある一定の拘束があること
4・その業務をどのような方法、手順で行うか一定の拘束があること
5・上司の監督下にあり、行わないことによって、注意、叱責、不利益を受ける場合があること

そう考えると、持ち帰り残業の場合は、
1・場所的な拘束がない
2・時間的な拘束がない
3・テレビを見ながらなど規律を守ってやる必要がない
4・自由な作業方法でやれる
5・使用者の直接的な指揮監督がない

というように 労働時間の定義に当てはまらないため原則としては、賃金を払う必要がなくなります。

しかし、例外もありますので注意が必要です。それは「黙示の業務命令」です。上司が社員に対して指示した業務が客観的に見て所定労働時間内には終わらないと判断されれば、「黙示の業務命令」がでたとみなされる場合があります。それが、たとえ使用者が家に持ち帰ってやれと指示していなくても、残業しても終わらず、または、経費節減のために残業がやりにくい状態で、持ち帰らなければ指示された業務をとうてい終えることができないと明らかに判断できる場合は 「黙示の業務命令と」みなされる場合がありますので注意が必要です。

最近では経費削減のために、ノー残業を推奨し、残業しにくいムードがあり、それはそれでいいことなのですが、どう考えても所定労働時間内に追われないような業務量を命令されてしまうと 残業はしにくい、でも残業しないと業務を終えることができないとなると、やむをえず持ち帰り残業をせざるをえないということになります。

厚生労働省では平成23年12月26日の労災新認定基準において「長時間労働はうつ病等の発生原因となる」と心理的負荷を与える出来事であるとしています。また、今年6月27日、「過労死等防止対策推進法(平成26年法律第100号)」が公布され、11月は過労死等防止啓発月間としており、「加重労働解消キャンペーン」として加重労働や過労死対策に力を入れているようです。
管理者の方は、残業時間のみならず、持ち帰り残業を強いられている労働者がいるようでしたら、黙認はせず、労働者の適正な労働時間を把握する必要があるのではないかと思います。

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