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■改正パートタイム労働法が施行されます(金澤)

      2016/02/21

今年の4月1日から、改正パートタイム労働法が施行されますが、何だか資料を読んでもピンとこないのは私だけでしょうか?色々と事業主に対する義務が創設されたのですが、どうも分かりにくい・・・というか難しいのです。特に「説明義務」のあたりが。
とはいえ、今回「事業主名の公表」や「過料」という罰則が創設されましたし、何もしないで放置する訳にもいきません。そこで、できるだけ簡略化して可能な限り分かりやすく解説していきたいと思います。なお、下記で示す条文は、全て改正後のものです。

<この法律の対象となる「パートタイム労働者」とは?>
簡単に言えば「正社員よりも短い時間で働く人」です。(以下「パート」と呼びます)正社員がいない会社の場合は、「一番長い時間働いている人」を基準にお考えください。
よって、短時間労働者であれば定年後の嘱託社員や短時間正社員も対象となりますし、逆に呼び名が「パートやバイト」でも、正社員と同じくフルタイムで働く人は対象外です。ただし、指針に「フルタイムの非正規社員にもこの法の趣旨を考慮してね」と書かれています。フルタイムで働くパートさんだけ保護されないのも、おかしな話ですからね。

<パートは3区分される?>
パートといえども、「職務の内容と責任」「人材活用の仕組みや運用(転勤・異動の有無等)」という2要件が正社員と同じであるならば、正社員と差別してはならない(法9条)とされています。今まではこれに「契約期間」という要件があったのですが、今回の改正でこれは削除されましたのでご注意下さい。もう「有期雇用だから差別してもOK」という訳にはいきません。
この2要件をもとに、以下のように3区分して、それぞれ「義務」や「努力義務」が規定されています。(呼び名は私の勝手な命名です)
タイプA)「正社員同視パート」・・・2要件を両方満たすパート
タイプB)「職務内容同一パート」・・・「職務内容と責任」要件のみ満たすパート(人材活用の仕組みや運用は異なる)
タイプC)「その他のパート」・・・2要件を両方とも満たさないパート

繰り返しますが、タイプA「正社員同視パート」は、全ての労働条件において正社員との差別禁止です(法9条)。時給も、同レベルの正社員の月給を時給単価に直したものと同等とすべきです。もちろん、同じ職種の正社員間でも勤務年数等によって月給が違いますので、合理的な理由での賃金差は当然許容されます。このあたりの判断が難しいのですが・・・

<今回新たに設けられた規定は?>
1)パートからの苦情を含めた相談に応じる体制を整備(相談窓口の設置等)して、その相談窓口を契約書などの書面でパートに明示すること。(法6条、施行規則2条1項、法16条)
⇒ 今までは、「昇給・退職金・賞与」の有無の3つが書面での明示義務とされていましたが、これに「相談窓口」が追加されましたので、今まで使用していた契約書等を変更する必要があります。例えば「総務部の山田部長」など、部署や個人名を明記することになります。中小企業であれば、事業主自身が窓口になることもあるでしょう。書式については厚労省のひな形を参考にしてください。
▼パートタイマー用の労働条件通知書(厚生労働者HPより)
http://www.lcgjapan.com/pdf/shoshiki620.pdf

2)パートを雇い入れる時・契約更新時に「パートに対して講じている措置の内容」を説明すること。(法14条1項)
⇒ 説明すべき事項は、「9条:待遇の差別をしていないこと(正社員同視パートのみ)」「10条:賃金制度がどうなっているのか」「11条:どんな教育訓練があるか」「12条:利用できる福利厚生施設」「13条:正社員転換措置の内容」についてです。これらの説明は口頭でも構いませんが「言った・言わない」の不毛な議論になるのを避けるため、最初から契約書等に盛り込んでしまうと実務上楽ではないかと思います。

ちなみに14条2項では、パートから求められた場合に「パートの待遇決定に当たって考慮したこと」を説明する義務が改正前から規定されていますが、こちらの説明義務は1項よりもさらに具体的な内容です。例えば賃金については「どの要素を、どう勘案して賃金を決めたのか」、教育訓練や福利厚生は「なぜその訓練や施設が使えるか?(または使えないのか?)」、正社員転換措置ならば「何を考慮して転換するしないを決定したか」といった具合です。「パートさんは全員、時給800円だから」では説明したことにはなりません。「なぜ、正社員は昇給するのに、パートはしないのか?」その内容が不合理な内容であれば法8条や9条違反です。これはかなり厳しいですね。合理的な説明できない企業が多数ではないでしょうか?

3)全てのパートタイム労働者の待遇が、(あらゆる事情を考慮して)不合理なものであってはならない。 (法8条)
上記で、タイプA「正社員同視パート」については一切の差別禁止と言いましたが、その他のタイプB「職務内容同一パート」・タイプC「純粋パート」も含めた全てのパートタイム労働者について、その待遇が正社員より劣るように設定する場合は、「業務内容や責任」「職務内容・配置の変更範囲」「その他の事情」を考慮して不合理なものとしてはならないという規定が新設されました。(法8条)
⇒ 「正社員同視パート」でなければ、正社員よりも劣る労働条件でも違法ではありませんが、あまりにも不合理な差があってはいけないという規定です。しかしこれも、線引きがあいまいで、非常に判断に苦しみます。

4)罰則の新設(法30条、18条2項)
都道府県労働局長による報告命令に対して、報告を拒否したり虚偽の報告をしたりした場合、20万円以下の過料に処せられます。また、厚生労働大臣の勧告に従わなかった場合は、事業主名の公表ができるようになりました。

今回の法改正は、決して甘く見てはいけません。罰則が新設されたことももちろんですが、裁判リスクが高まることも予想されるからです。ニヤクコーポレーション事件(大分地判平成25年12月10日)では、初めてパートタイムタイム労働法第8条(新9条)違反を不法行為として、正社員との差について損害賠償請求が認められました。これは全ての企業にとって衝撃の判決です。今後、同様の裁判が増加することも考えられ、今回の法改正はそれを後押しするかもしれません。

個人的な印象ですが、非正規社員が納得して働いている会社は労務トラブルが少ないと感じます。今後は少子高齢化で人材が不足していきますし、優秀な非正規社員を確保することは企業運営にとって非常に重要です。
法の網目を掻い潜って「違法でない差別」をしようと試みるのではなく、これを機に「納得できる処遇」について考えてみると良いのではないでしょうか?

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