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■労働契約法第1章総則と労働契約上の権利・義務

      2016/02/21

今回より、労働契約法の条文をご紹介しながら、関連判例をみていきたいと思います。
まずは、第1章総則です。
第1条(目的)
第2条(労働者と使用者の定義)
第3条(労働契約の原則)
第4条(労働契約の内容の理解の促進)
第5条(労働者の安全への配慮)
から成り立っています。

(目的)
第1条 この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。

<労働契約法の根本的な目的>
「労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資すること」
→労働契約法は「労働者保護法」である。
<勤労条件に関する基準>
「合意の原則その他労働契約に関する基本的事項」
→労働契約法は「憲法27条2項」に基づいて制定された法である。
『賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は法律でこれを定める』
→労働契約に関する基本的事項は、「労働契約の成立・存続・終了」までが規制されている。
・合理的な内容をもつ就業規則によって契約内容の形成
・就業規則による契約の変更に関しての合理性審査
・就業規則による解約に関しての合理性と社会的相当性

(定義)
第2条 この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。
2 この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。

<労働者と使用者の最大の義務を定義>
「労務提供と対価としての賃金支払い」
→労働者の三大義務     使用者の二大義務
1.職務専念義務     1.安全健康配慮義務
2.指揮命令遵守義務   2.職場環境配慮義務
3.企業秩序遵守義務

(労働契約の原則)
第3条 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
2 労働契約は、労働者及び使用者が就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
3 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

<労働者及び使用者が対等の立場における合意>
労働基準法2条(労働条件の決定)
「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」
→弱者と強者という前近代的な身分的関係を打破。
労働契約法では、弱者・強者を超越した文字通り対等な立場で労働条件決定。

<労働者及び使用者が就業の実態に応じて、均衡を考慮>
「均等待遇の理念は、賃金格差の違法性判断において、ひとつの重要な判断要素として考慮されるべきものであって、その理念に反する賃金格差は、使用者に許された裁量の範囲を逸脱したものとして、公序良俗違反の違法を招来する場合がある」
→パートと正社員との賃金格差が争われた丸子警報器事件での判断。
対応としては、「業務内容の違い」を徹底する。

<労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮>
「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)は労働政策の重要な課題」
→生活との調和は出産・育児・介護との関係性が強い。

<労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行>
「退職後の競業行為と不法行為-三佳テック事件(最高裁第一小法廷平成22年3月25日判決)」
【事件の概要】
Y社の従業員であった2名(X1・X2)が、退職後、X3社を事業主体としてY社の取引先4社から仕事を受注するようになった(競業行為を行った)ため、会社が損害を被ったとして、Y社がX1らに対し、不法行為又は雇用契約に付随する信義則上の競業避止義務違反に基づく損害賠償(1,349万円余)を請求。
第1審(名古屋地一宮支判平成20.8.28)は、Xらが競業行為により、取引上逸脱した方法、態様でYの営業上の利益を侵害したと評価することはできないとしてYの請求を棄却した。これに対して原審(名古屋高裁判決平成21.3.5)は、X1は在職時に営業を担当していたZ社ほか3社(以下「本件取引先」という)に退職のあいさつをし、Z社ほか1社に対しては退職後にY社と同種の事業を営むので受注を希望する旨を伝えた。そしてX3社は、Z社から平成18年6月以降、仕事を受注するようになり、また同年10月ころからは本件取引先のうち他3社からも継続的に仕事を受注するようになった。本件取引先に対する売上高は、X3社の売上高の8-9割程度を占めた。なお、Y社の本件取引先に対する売上高は、全体の3割程度を占めていたが、X1らの退職後は従前の5分の1程度に減少した。
Xらは、Y社の取引先を主たる取引先として事業を運営していくことを企図して、本件取引先から受注を開始し、隠蔽工作等をしながら、X1と本件取引先との従前の営業上のつながりを利用して会社から本件取引先を奪い、Y社の売上げのほぼすべてを本件取引先から得るようになった。本取引先に対する売上高は、全体の3割程度を占めていたが、X1らの退職後は従前の5分の1程度に減少した。
Xらは、Y社の取引先を主たる取引先として事業を運営していくことを企図して、本件取引先から受注を開始し、隠蔽工作等をしながら、X1と本件取引先との従前の営業上のつながりを利用して会社から本件取引先を奪い、Y社の売上げのほぼすべてを本件取引先から得るようになる一方で、これにより会社に大きな損害を与えたものであるから、本件競業行為は社会通念上自由競争の範囲を逸脱したものであり、XおよびX3の共同不法行為に当たるとして、Y社の請求を一部認容した。これに対して、Xらが上告した。
【主要な争点】
1.退職後の競業行為の違法性及び不法行為該当性の有無
2.退職後の競業行為の信義則上の競業避止義務違反の有無
【判定】
1.X1らは営業担当であったことに基づく人的関係等を利用することを超えて、Y社の営業秘密に係る情報を用いたり、Y社の信用をおとしめたりするなど不当な方法で営業活動を行ったとは認められない、2.Y社と本件取引先との自由な取引が本件競業行為によって阻害されたという事情はうかがわれないとし、本件競業行為は社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものとはいえず、Y社に対する不法行為に当たらない、またXらに信義則上の競業避止義務違反があるとはいえないとした。
→営業秘密の利用などがあり、自分たちの退職後に企業が弱体化した状況下で取引先を奪うなどの行為があり、さらに隠蔽工作をしたような事情があれば、不法行為が成立する可能性があるといえる。今後労働契約上の権利・義務として認容したい判例。

(労働契約の内容の理解の促進)
第4条 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
2 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。

<労働条件の理解について>
強制義務ではないが、契約締結時や変更時において労働条件等の書面による明示とともに適切な説明が必要である。

(労働者の安全への配慮)
第5条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

<安全配慮義務と健康配慮義務>
労働安全衛生法上の健康安全配慮義務とパワハラ・セクハラに見る職場環境配慮義務が使用者にかかげられた義務である。精神面での安全が問われている今日、根拠法であり根拠条文である。

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