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■年金額アップとマクロ経済スライド初発動(北出)

      2016/02/21

平成27年4月から、年金額が僅かですが上がったのをご存じでしょうか。国民年金満額で考えた場合、昨年度月額64,400円だったのが、今年度月額65,008円になり、608円アップしたのです。そのアップした年金、4月分と5月分が支給されるのは6月半ばなので、今月支給される年金は、ちょっとだけ上がった金額になります。

さて、そもそもどのようにして、年金額は上がったり下がったりしてきたのでしょうか。

従来、年金額は物価に比例してその額を上げてきました。これを「完全自動物価スライド」といいます。物価が上がっているのに、年金が上がらないのでは、確かに生活していけませんよね。だから、昔は単純に物価にあわせて年金額を上げ下げしてきたのでした。

しかし昨今、年金受給者、受け取る側が高齢化によって増え、支払う側、支え手である若者が少子化によって少なくなったことによって、このままでは年金が破綻してしまう可能性が出てきたわけです。ご存じの通り、日本の年金は、「世代間扶養」といって、「積立式」ではありません。現役世代の納めたお金で、リタイアした世代の生活を支える仕組みですので、当然、破綻してしまう可能性がある年金を、国民全員に薄く広く行き渡らせるためには、年金額の伸びを抑える必要が出てきます。

そこで考え出されたのが、「マクロ経済スライド」という仕組みです。簡単に言うと、現役被保険者、つまり支え手の減少と、平均余命の伸びに基づいて「スライド調整率」が設定され、その分を「改定率」から引くことによって、年金額の上がりすぎを抑える仕組み、ということになります。しかしながら、この「マクロ経済スライド」は、平成16年度の改正以来、一度も発動されてきませんでした。

なぜなら、時の厚生労働大臣によって、「物価スライド特例措置」という、実際の賃金や、物価の伸びに対して高止まりした水準の年金を支給する、という決定がなされてしまったからです。当時は大不況だったので物価も賃金も下がりましたが、いずれ上がるだろうと考えて、年金額を下げなかったのです。しかしその後、不況は続き、あのリーマンショックを経て、物価も賃金もどんどん下がっていきましたが、年金は高い水準のまま支給され続けました。なんと、特例水準と実際の差は2.5%まで開いてしまっていました。

このままではいけないと考えた厚生労働省が、ようやくこの「物価スライド特例措置」を解消しようと動き出したのが、平成25年秋。年金は、「改定率」をマイナス1%することによって下がりました。平成26年春には1%下がりました。そして、平成27年度、0.5%を解消しようとした矢先、なんと物価も賃金も上がったのです。なんと物価の伸びはプラス2.7%でした。

そこで、平成27年度4月からの年金は、
「名目手取り賃金変動率」(賃金の伸び) +2.3%
マクロ経済スライドによる「調整率」 -0.9%
物価スライド特例措置の解消分 -0.5%
この三つを差し引きして、今年の改定率はプラス0.9%になりました。

10年もの歳月を経て、ようやくマクロ経済スライドが初めて発動されたのです。確かにその趣旨の通り、本年は、物価や賃金はかなり上がっているけれど、それほど年金額は上がりませんでした。そういう意味では、残念な結果なのかもしれません。平成27年度4月からの年金が上がったのは、特例水準の解消や、マクロ経済スライドの発動を補ってあまりある物価の伸び、賃金の伸びがあったということも出来るでしょう。

皆さんはこのちょっとだけ上がった年金、どう思われますか?

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