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■第3章労働契約の継続と労働時間

      2016/02/09

今回も、労働契約法の条文をご紹介しながら、関連判例をみていきたいと思います。
第3章は、労働契約の継続及び終了です。
第14条(出向)
第15条(懲戒)
第16条(解雇)
から成り立っています。
今回は、第14条をとりあげます。

(出向)
第14条 使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

<労働局需給調整部の見解>
出向の目的とは(利益を目的としないもの=業として行わないもの)
①不況等により労働者を離職させないために、関係会社において雇用機会を確保(要員調整型)
②経営指導、技術指導の実施(業務提携型)
③職業能力開発の一環(実習型)
④企業グループ内の人事交流(人事交流型)

(1)在籍出向の場合
出向元と出向先との間に二重の雇用関係が成立するため、労働者派遣には該当しないが、形態としては労働者供給事業(労働者を利用しての中間搾取事業)に該当し、「業として行う」場合には、職業安定法第44条違反となる。

(2)移籍出向の場合
出向元と雇用関係が終了するため、労働者派遣には該当しないが、「業として行う」場合には、職業紹介事業に該当する。

<判例による一般的見解>

(1) 在籍出向の場合

就業規則に出向に関する規程がおかれ、出向規程により出向先を限定し、出向社員の身分、待遇などが明確に定められ保証されていれば、使用者は、労働者から改めて個別的な承諾を得なくても出向を命令することができる。<包括的同意でOK>
なお、労働者が使用者との間で、出向の余地を排除し、勤務地や職種を限定した個別契約を締結している場合には、当然、就業規則の出向同意規定の効力は当該個別契約には及ばない。
(2) 転籍の場合

転籍元との労働契約(雇用契約)を終了させ新たに転籍先と労働契約を締結するものであり、単に就業規則に「転籍させることがある」旨を規律し、これを採用時に提示するという包括的同意だけでは足りず、労働者の個別の同意が必要である。

<労働契約法における出向の概念と私的見解>

民法第625条第1項では、「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。」と規定しており、出向を命じることができるためには、「労働者の同意」が必要としています。
労働契約法では、「同意」には触れていません。出向命令が権利濫用に当たる場合は、無効とするとしているだけです。
判例の見解等を考慮すれば、①就業規則による出向業務命令規定と②出向規程の整備が「包括的同意でOK」と判断される要件と考えます。

判例については、労働契約上、使用者が有する命令権の根拠と限界の視点から、事業場外みなし労働時間制の適用が問われた最高裁判決を取り上げます。

事業場外労働のみなし労働時間制~阪急トラベルサポート事件(最高裁判決平成26年1月24日)
【事件の概要】
Xは、旅行会社が企画、主催する募集型の企画海外旅行(ツアー)ごとに、ツアー実施期間を雇用期間と定めて派遣会社Yに雇用され、添乗員としてA旅行会社に派遣されて添乗業務に従事する登録型の派遣社員であった。Xは、ツアー終了後、各日の行程について記載した添乗日報等の添乗報告をA会社に提出していた。
Y会社は、Xをツアーに派遣するために雇用する際、派遣社員就業条件明示書を交付しており、そこには所定労働時間としては、「原則として午前8時から午後8時までとするが、実際の始業時刻、終業時刻及び休憩時間については派遣先の定めによる」と定められていた。
Xは、日当10,500円を支払われていたが、このほかに時間外割増賃金と深夜割増賃金が支払われるべきであるとして、その支払いを求めて訴えを提起した。Y会社は、Xには、労基法38条の2の事業場外労働におけるみなし労働時間制が適用されると主張した。
第1審判決(東京地判平成22年7月2日)は、本件添乗業務は、「労働時間を算定し難いとき」に該当するものとして、事業場外みなし労働時間制の適用を肯定した。
第2審判決(東京高判平成24年9月14日)は、第1審判決を変更し、事業場外みなし労働時間制の適用を否定しました。
最高裁判決では、労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえない、との判断を示した。
【判定】
「労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなされる」労基法38条の2

「業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、本件会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況を鑑みると、本件添乗業務については、これに従事する添乗員の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く、労働基準法38条の2第1項にいう『労働時間を算定し難いとき』に当たらないとはいえない」

→本件添乗業務は、ツアーの旅行日程に従い、ツアー参加者に対する案内や必要な手続の代行などといったサービスを提供するものであるところ、ツアーの旅行日程は、本件会社とツアー参加者との間の契約内容としてその日時や目的地等を明らかにして定められており、その旅行日程につき、添乗員は、変更補償金の支払など契約上の問題が生じ得る変更が起こらないように、また、それには至らない場合でも変更が必要最小限のものとなるように旅程の管理等を行うことが求められている。そうすると、本件添乗業務は、旅行日程が上記のとおりその日時や目的地等を明らかにして定められることによって、業務の内容があらかじめ具体的に確定されており、添乗員が自ら決定できる事項の範囲及びその決定に係る選択の幅は限られているものということができる。
また、ツアーの開始前には、本件会社は、添乗員に対し、本件会社とツアー参加者との間の契約内容等を記載したパンフレットや最終日程表及びこれに沿った手配状況を示したアイテナリーにより具体的な目的地及びその場所において行うべき観光等の内容や手順等を示すとともに、添乗員用のマニュアルにより具体的な業務の内容を示し、これらに従った業務を行うことを命じている。そして、ツアーの実施中においても、本件会社は、添乗員に対し、携帯電話を所持して常時電源を入れておき、ツアー参加者との間で契約上の問題やクレームが生じ得る旅行日程の変更が必要となる場合には、本件会社に報告して指示を受けることを求めている。さらに、ツアー参加者のアンケートを参照することや関係者に問合せすることによってその正確性を確認することができるものになっている。
これらによれば、本件添乗業務について、本件会社は、添乗員との間で、あらかじめ定められた旅行日程に沿った旅程の管理等の業務を行うべきことを具体的に指示した
上で、予定された旅行日程に途中で相応の変更を要する事態が生じた場合にはその時点で個別の指示をするものとされ、旅行日程の終了後は内容の正確性を確認し得る添乗日報によって業務の遂行の状況等につき詳細な報告を受けるものとされているということができる。

【私的見解】
事業場外みなし労働時間制については、携帯電話等の普及により、「労働時間が算定し難い」とはいえない状況にある昨今では、裁判で争われた場合には、まず会社側が負けています。
労働者側の裁量がほとんどであるが故に、業務を委ねた結果として、業務終了後、詳細な結果報告を求めることは当たり前の管理手法と思いますが、今回の判例では、マイナス行為になっています。
開発・企画等創造する世界でしか、適用しない労働時間制度である観がしてきました。営業職には、通常の時間管理に中抜け休憩時間付与の徹底が実態に合っているのかもしれません。

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