控訴中に未払残業代払うも付加金認容され会社上告
2018/03/03
甲野堂薬局事件 【最一小判 2015/03/06】
原告:会社 / 被告:元従業員
【請求内容】
未払割増賃金等の支払いを命じられた会社が控訴審理中に賃金精算したが、付加金の支払いを命じられたため、上告した。
【争 点】
未払割増賃金および遅延損害金の精算後の付加金請求の当否について
【判 決】
付加金は口頭弁論終結時までに法違反が消滅した時は命ずることができないとし、二審判決を一部破棄。
【概 要】
上告人(会社)が、被上告人(元従業員)を相手に、被上告人に対する未払賃金債務が173万1919円を超えて存在しないことの確認を求め、これに対し被上告人が未払賃金の支払い等を求めるとともに、労働基準法37条所定の割増賃金の未払金に係る同法114条の付加金の支払を求めた事案である。控訴中に上告人は未払割増賃金である173万1919円及び、遅延損害金の合計額である、198万66円を被上告人に支払い、本件請求に係る訴えの取り下げへの同意を取った。
【確 認】
■付加金の発生要件
使用者が未払割増賃金等を支払わない場合に当然に発生するものではなく、労働者の請求により裁判所が付加金の支払いを命ずることによって初めて発生するものと解すべきである。使用者に法違反があっても、裁判所がその支払を命ずるまで(訴訟手続上は、事実審の口頭弁論終結時まで)に使用者が未払割増賃金の支払を完了しその義務違反の状況が消滅した時には、もはや、裁判所は付加金の支払を命ずることができなくなると解すべきである。
参照:最二小判昭35.3.11/最二小判昭51.7.9
【判決のポイント】
付加金および未払賃金の遅延利息の取り扱いについて
■【付加金』労働基準法第114条
裁判所は解雇予告手当(20条)・休業手当(26条)・時間外、休日及び深夜の割増賃金(37条)の規定に違反した使用者または年次有給休暇(39条6) の規定による賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、使用者が支払わなければならなかった未払金の他に、これと同一額の付加金の支払を 命ずることができる。
労働者の請求により、裁判所が命ずるものであること。審議中に支払が完了すれば、請求できない。
■【未払賃金の遅延利息』
事由発生の翌日から在職日までは、対法人の場合は年6%・対個人の場合は年5%(商法514条・民法404条)
退職後は、退職日の翌日から支払い済み日まで年14.6%(賃金の支払いの確保等に関する法律6条) 労働者の請求ではなく、当然に発生するものと考えられる。
【SPCの見解】
■ 本判決のように、第一審判決で負荷金の支払が命じられていても、判決確定前は未だ付加金は発生していないから、使用者が控訴審(事実審)の口頭 弁論終結時(法定の未払の支払いの事実を判決の基礎とすることができる時)までに使用者が法定未払金の支払を行えば、もはや裁判所は付加金の支払を命ずる ことができないということになる。
付加金とは、あくまでも、裁判所が命じて初めて発生するもの、また、悪質な使用者に対して制裁的な意味を持つものとして、未払賃金額と同額である「倍返 し」を命ずることができるもの、審議中に支払ことで、その悪質性が消えるわけではないが、未払い残業代が「明らかに」発生しており、裁判になってしまった ら、口頭弁論終結時前に支払をした方が良いだろう。
労働新聞 2016/1/25 / 3050号より