妊娠契機に副主任から外れ、均等法違反の判断は?
2018/03/03
広島生活協同組合事件 【広島高判 2015/11/17】
原告:理学療法士X / 被告:病院
【請求内容】
妊娠を機に降格し、復職後も妊娠前の職位に戻さないのは不利益取扱いであるとして管理職手当と損害賠償を請求。
【争 点】
妊娠中の軽易業務転換請求により降格させ、復帰後も元の地位に戻さないことは、均等法及び育介休業法違反で無効か?
【判 決】
降格は無効とし、副主任手当月額9,500円と、不法行為による損害賠償として、慰謝料100万円の支払いを命じた。
【概 要】
最高裁は、軽易業務転換を契機とする降格は、原則として均等法9条3項で禁止される不利益取扱いに該当し、①Xが自由な意思に基づいて降格を承諾したと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、または②降格せずに軽易業務へ転換させることに義務上の必要性から支障があり、均等法の趣旨・目的に実質的に違反しないものと認められる特段の事情のある場合には、同項の禁止する取扱いに当たらないとし特段の事情の存否等について審理を尽くさせるべく原審判決を破棄し広島高裁に差し戻した。
【確 認】
【マタハラ(マタニティ・ハラスメント)とは】
妊娠・出産をした女性に対して、職場で精神的・肉体的な嫌がらせをしたり、人事上の不利益な扱いをすること。
法的には、均等法9条3項や育介法10条にて、「婚姻、妊娠、出産、育児休業の申出等を理由とする不利益取扱いの禁止」を定めている。不利益取扱いとは、以下のようなものをいう(厚生労働省告示第614号)。
①解雇すること。②期間を定めて雇用される者について,契約の更新をしないこと。③あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に,当該回数を引き下げること。④退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。⑤降格させること。(※例示でありこれに限らない)
【判決のポイント】
1)Xが自由意思で承諾したものといえるか?
Xが強く希望するリハビリ科に異動させたからといって、降格について承諾があったとはいえない。事前に承諾を得たという証拠はなく、同科には主任がおり、 かつ、ひとつの組織単位に主任と副主任が併存した例がないことをXが知っていたとしても、副主任を免ぜられることを承諾したことにはならない。
2)「特段の事情」の有無?
病院は、Xを降格しないと、リハビリ科に主任と副主任が併存することになり、組織規定に反し、業務上の支障が生ずる可能性があるとするが、現場の実情を判 断して原則に捉われない柔軟な運用もあるはずである。軽易業務への転換請求を機に女性労働者の資質・能力を理由とする降格が一切許されないとまでいうこと はできないが、Xに自分の意見と異なる上司の意見や組織の方針に対して反論・非難したり部下の反論を許さなかったり、複数の後輩が同じ職場で働くことを 嫌って退職したりするほどの独善的、かつ、協調性を欠く性向や勤務態度があるとはいえず、これを理由をしてXに職責者適格性に欠けるとも言い難い。
また、労基法に基づく妊娠中の軽易業務への転換に際して副主任を免ぜられたことの有利・不利な影響として、①軽易業務で身体的負担が減ること、②副主任を 免除すること自体は負担減であること、③病院がXの担当患者を減らすなどしたことは利益であるが、一方、降格により経済的損失を被るほか、役職取得に必要 な職場経験のやり直しを迫られる不利益があり、Xの元の職場にすぐ後任の副主任が任命され、Xを副主任として復帰させるための方策の検討もなされていない ことなどから、均等法9条3項に実質的に反しないと認められる特段の事情があったとはいえない。
3)不法行為の成否?
労基法に基づく妊娠中の軽易業務への転換に際して副主任を免ぜられたことにつき、承諾が自由意思に基づくものと認められる合理的理由は存在しないこと、職 責者によって十分な検討がなされていないことから、女性労働者の母性を尊重し、職業生活の充実の確保を果たすべき義務に違反した過失(不法行為)があり、 配慮義務違反(債務不履行)がある。
【SPCの見解】
■本判決は、妊娠した女性に認められた軽易業務への転換という事例の特徴を重視して、使用者に、このような配置換えにおいては、職位の維持を前提と した配属先の選定に尽力するように求め、そのような措置ができない根拠については厳格なものを求めている。換言するならば、妊娠を契機とする異動に伴う降 格の人事裁量は通常の降格の場合よりも制限され、また使用者側が当該措置の適否に関する立証責任の多くを負担することになるといえる。まさに男女雇用機会 均等法の存在を重視した判断であるといえる。少子化によって生産年齢人口が減少し続ける我が国においては、やむを得ない方向とはいえ、職位の役割、責任が どのようなものであったかの検討も必要な気がする。
労働新聞 2016/2/15 / 3053号より