試用期間中の解雇と職場での受動喫煙対策
2016/02/23
ライトスタッフ事件 【東京地判 2012/08/23】
原告:試用期間社員X / 被告:会社
【請求内容】
試用期間中のXが分煙を求めたところ解雇されたことを不当とし、解雇無効を求めて提訴した。
【争 点】
分煙を訴えた試用期間社員を休職ののち解雇したことは不当か?
【判 決】
原告の対応も問題だが、分煙要求を疎ましく思う余り解雇したのは稚拙で解約回避措置が不十分として解雇無効。
【概 要】
試用期間中のXは、採用から約1ヶ月後、職場の受動喫煙により体調不良である旨を社長に訴えたところ、社長から「退職」「解雇」「1ヶ月休職して体調が回復するか様子をみて、体調不良の原因が受動喫煙かどうか医師の診察を受け因果関係をはっきりさせる」という3つの選択肢を提示された。Xは休職を選択したが、その後社長から退職勧奨されたのち、本採用不可を通知された。
【確 認】
※本件の主な争点である「試用期間中の解雇」については過去の記事(2012.11.14)試用期間中の解雇を参照。
<職場の分煙(受動喫煙)対策について>
健康増進法25条により既に事務所での受動喫煙防止措置は努力義務とされており、さらにそれを強化した「受動喫煙の防止義務」(後に修正され「努力義務」に変更され骨抜きに)を定めた労働安全衛生法の改正が検討されていたが、衆議院解散により廃案となってしまった。しかし日本はWHOの「タバコ規制枠組条約(FCTC)」に批准していることから、今後もその方向性は変わらないと思われる。FCTCは喫煙室の設置による分煙すらも認めておらず、建物内の全面禁煙を求めているが、日本は現時点では喫煙室の設置も受動喫煙対策のひとつとして認め助成金を出している。
【判決のポイント】
■試用期間中の解雇は「留保解約権の行使」として、通常の正社員の解雇に比べて広く認められる(し易い)とされており、さらに本件は原告にも対応の拙さ(※)が目立ったにも関わらず、何故解雇は認められなかったのか
1)留保解約権の行使は、試用期間の趣旨・目的に照らして通常の解雇に比べ広く認められる余地があるとしても、その範囲はそれほど広いものではなく、解雇権濫用法理の基本的な枠組みを大きく逸脱するような解約権の行使は許されない。
2)会社は使用者の責務として(労働契約法5条)、原告に対し、より積極的に分煙措置の徹底を図る姿勢を示した上、あくまで「保険営業マンとして」の適格性を見極めるという選択肢もあったにも関わらず、社長が原告を疎ましく思う余り、事実上原告を会社から締め出すに等しい措置をし、原告の対応の拙さを認めるや直ちに解約権を行使した。以上のような会社の判断は如何にも稚拙であり、これを正当化するに足る、解約回避のための措置が不十分である。
以上のことから、本件解約権行使は無効である。
(※)原告の対応の拙さ
休職開始後、一度社長に連絡をしたものの、その後1ヶ月近くにわたって会社に連絡をしなかった。
その後も専門医の診断が出るまでは連絡しないと他の社員に伝言する等の原告の対応は、本件休職合意を一方的に破棄する行為に近いもので、会社との信頼関係を失わせるものであるばかりか、社員としての協調性や基本的なコミュニケーション能力にも疑念を生じさせるものであって「当社社員として不適格」であると根拠づけるに足りる。
【SPCの見解】
■試用期間中の労働者に対する解雇は、通常の労働者よりも広く認められる傾向にはあるが、基本的な「客観的に合理的な理由」や「社会通念上の相当性」は当然求められる。今回は受動喫煙をめぐる争いであったが、本件以外にも、職場での受動喫煙により化学物質過敏症を患ったとして訴えた労働者が不当解雇されるという事件があり、最終的には会社が和解金700万円を労働者に支払う形で和解している(札幌地裁)。会社は、労働者の「生命および健康を保護するよう配慮すべき義務(安全・衛生配慮義務)」があり、全く何の対策もしないまま労働者を解雇するという対応は極めて問題である。衆議院解散で廃案となってしまったが、今後の労働安全衛生法改正の動向は注目である。
労働新聞 2013/4/1/2915号より