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能力を買われて中途採用された者の能力不足による解雇

      2016/02/23

コアズ事件 【東京地判 2012/07/17】
原告:中途採用者  /  被告:会社

【請求内容】
中途採用の営業部長が、新人10人採用という特命不達成による給与減額、降格、解雇の無効を主張して提訴した。

【争  点】
大幅な賃金減額や降格などの処分、その後の解雇は、裁量権の逸脱・濫用として無効か?

【判  決】
特命不達成による給与減額や降格処分は裁量権濫用で無効。無効な処分の後の解雇も有効性がなく無効である。

【概  要】
営業部長として中途採用されたXは、月給80万円で、半年で10人を新規採用する業務を命じられた。Xは数回にわたり数人を採用しようとしたが、全て社長に承認されなかった。その後Xは新人採用という特命不達成、勤務能力・態度が低劣であるとして月給が46万7,040円に減額された。さらにその後降格され、月給2万円減額された。そこでXは、減給、降格、解雇が無効と主張し、営業開発部長としての地位確認と、減額分の差額賃金の支払いを求めた。

【確  認】
労働条件を不利益に変更するには大きく分けて以下の3つの方法がある。
1)労働者の個別の同意による変更。(労働契約法8条)
2)就業規則変更による変更。(労働契約法9条、10条)
⇒ 一定の要件を満たさなければ認められない。
※ 詳細は(12.12.26)フェデラルエクスプレスコーポレーション事件の「確認」を参照
3)人事権の行使(降格・降職等)による変更。
人事権の行使は使用者に委ねられた経営上の裁量判断に属する事柄であり、これが「社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用に当たると認められる場合でない限り」違法とはならない。(会社に広い裁量権がある)

 

【判決のポイント】

1)Xの給料減額は妥当か?
Y社は「半年で営業部員10人を採用する」という特命事項を達成できなかったことを理由にXを減給処分としたが、これに対し本判決は、以下の理由により不合理で無効とした。
① 給料の減額幅が30万円を超えるもので著しく大きく、Xの受ける不利益が甚大であること。(不利益の程度)
② Xが特命事項を達成できなかったとしても、それを実現できなかった場合、給料減額という不利益処分がされることまではXは認識しておらず、合意があったとはいえないこと。(人事評価の適切性)
③ 営業部員10人採用という業務が、Xの営業開発部長として最低限の能力を見極める目的があったという重要な位置づけの業務ならば、雇用契約締結の段階でそれなりに書面上の合意が交わされてしかるべきところ、そのような書面も存在せず、どの程度切実な課題であったのか不明であること。(労使折衝の事情)

2)Xの降格(部下のいない独任官)は有効か?
人事権(採用、配置、移動、昇格、降格など)の行使は、使用者に広い裁量権が認められているが、労働者の人格を侵害するなどの違法・不当な目的をもってなされてはならず、裁量権の範囲を逸脱した違法なものは不法行為となる。なお裁量逸脱の判断は「使用者における業務上・組織上の必要性の有無や程度」「労働者の能力・適性の有無」「労働者の受ける不利益の性質・程度」等が考慮される。本件では以下の理由により裁量権濫用があり無効とした。
① Xの勤務状況が劣悪であったとは認められず、降格に値するような確たる非違行為があったわけでもない。
② Y社において、恣意的な人事が行われている実態も窺われる。

【SPCの見解】

■経験や能力を買われて「営業部長」など地位を特定して中途採用された者は、通常の新規採用者と比較して「能力不足による解雇」は比較的認められやすい。それでも解雇が正当であるというためには、具体的に地位や会社が期待する業務内容、成果の具体的な数値などを明記した「契約書」を作成し、もしそれが達成されなかった場合にされる処分についても合意しておく必要がある。本件ではその点を疎かにしていたことに会社側の落ち度があったといえるだろう。また、例え正当な理由があったとしても、急に大幅な給与減額することは許されず、例えば一定期間(6ヶ月から1年程度)調整給等を設けて激変緩和措置をするなどの対応が求められるため注意が必要である。
労働新聞 2013/4/8/2916号より

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