請負契約なのに団体交渉に応じなければならないのか?
2016/02/23
国・中労委(ソクハイ)事件 【東京地判 2012/11/15】
原告:会社 / 被告:国
【請求内容】
メッセンジャーらにより結成された労働組合との団交を拒否した会社が、中労委からの救済命令取消しを求めた。
【争 点】
(雇用契約ではなく)請負契約を結んでいるメッセンジャーも労働組合法上の「労働者」にあたるか?
【判 決】
業務実態から労働契約に類するとして、本件メッセンジャーらは労組法上の労働者であり、不当労働行為となる。
【概 要】
バイク便の会社であるS社は、メッセンジャーらと「請負契約」を締結していた。ところがメッセンジャーらによる労働組合が結成され、団体交渉を申入れられた。S社はこれを拒否したが、これについて労働委員会は、メッセンジャーらの「労働組合法上の労働者性」を肯定して、S社に対し、団交拒否は不当労働行為にあたるとして救済命令を出した。S社はこれを不服として再審査を申し立てたが、棄却されたため、その取消を求めて提訴した。
【確 認】
<なぜ直接雇用していない(請負契約の)メッセンジャーらからの団交拒否できないのか?>
請負であるメッセンジャーらは、労働基準法上の労働者ではない。(偽装請負である等の例外を除く)しかし、労働組合法の定義する「労働者」は労働基準法の「労働者」よりも広い範囲の者を指すとされているため、例えメッセンジャーらが労基法上の「労働者」には含まれないとしても、労組法上の「労働者」にあたる場合は、それらの者達からの団体交渉を正当な理由なく拒否することは不当労働行為となる。(労働組合法7条2号)
【労基法の労働者(9条)】職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者
【労組法の労働者(3条)】職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者
【判決のポイント】
《メッセンジャーが労働組合法上の「労働者」と判断されたポイント》(以下、メッセンジャーをMと表記する)
(1)会社の事業組織への組込み
⇒ MらはS社の事業の遂行に不可欠な労働力であり、一応、S社の事業組織に組み込まれていた。
(2)会社による契約の一方的・定型的・集団的な決定
⇒ Mらの契約内容は、「運送請負契約書」によりS社が一方的・定型的・集団的に決定していた。
(3)報酬の労務対価性
Mらの報酬は基本的には出来高払制であるが、その出来高はほぼ定型的労働量(時間)に依存していた。
⇒ Mの報酬は、実際上「労務供給に対する対価」であった。
(4)業務の依頼についての諾否の自由
⇒ S社からの業務依頼を断ってもペナルティはないが、実際上MらはほとんどS社の依頼を断ることはなかった。
(5)労務供給の日時・場所・態様の拘束性
⇒ Mらの勤務日時・場所等は、ほぼS社の従業員と同様であった。また、業務の内容はマニュアル化されており、業務遂行の仕方についてMらに裁量の余地はほぼなかった。
(6)会社に対する専属性
⇒ S社はMらの兼業は禁止していないものの、事実上はS社に専属的に労務を供給していた。
(7)顕著な事業者性
⇒ Mらは配送用自転車を自ら所有し、経費も自己負担だったが、業務の第三者への再委託は禁止されていた。
【SPCの見解】
■契約上「請負契約」となっていても、「雇用契約」や「派遣契約」にあたるような実態があれば、それは偽装請負である。また、雇用契約(労基法上の労働者)とはいえない場合でも、「労働組合法上の労働者」に該当する場合は、本件のような不当労働行為の問題が発生する場合があるため、請負契約締結の際には、それが真に請負に該当する契約内容か否かはしっかりチェックする必要がある。本件も、Mらと会社との実際の関係をみると、純粋な請負契約と見るには無理があるといえ、少なくとも労働組合法上の「労働者」にあたるという判決は妥当であろう。安易な請負契約にはこういったリスクもあるということを忘れてはならない。
労働新聞 2013/4/22/2918号より